特定運送委託とは?【2026年版】4類型・対象外・義務・禁止行為を実務で解説

まず確認してください|あなたの会社は大丈夫ですか?

  • 運送の発注を口頭で行っている、または発注書が「一式〇〇〇〇円」になっている
  • 棚入れ・ラベル貼り・検品などをドライバーに無償で行わせている
  • 支払が受領後60日を超えることがある

1つでも当てはまれば、すでに違反リスクがある状態です。

この法律は「運送会社を守る法律」ではありません。荷主の発注行為を直接監視する法律です。運送会社が声を上げなくても、公正取引委員会・国土交通省が荷主企業を直接調査します。


項目内容
1定義荷主が自社の販売・製造・修理・情報成果物作成に伴い、取引相手への運送を外部の運送事業者に委託する取引(取適法(旧下請法)2条5項)
2判定基準「取引相手に届ける運送か」が判定の核心。自社拠点間移動・廃棄物運搬は原則対象外
3義務4条書面(発注書)の交付 / 60日以内の支払期日設定 / 2年間の書類保存 / 遅延利息(年14.6%)
4リスク公正取引委員会からの勧告・社名公表 / 排除措置命令 / 過去2年分の遅延利息遡及請求

<この記事でわかること>
【特定運送委託とは】荷主が自社の取引相手へ物品を届けるために外部の運送事業者へ委託する取引(下請法2条5項)
【対象外となる主なケース】産業廃棄物の運搬 / 自社拠点間移動 / 贈答品・無償サンプルの運送
【特定運送委託に当たらないが別の法律で規制あり】棚入れ・ラベル貼り・検品・荷待ちの無償強要(附帯業務)
【主な義務】4条書面の交付 / 60日ルール / 価格協議義務 / 2年間書類保存
【放置した場合のリスク】勧告・社名公表 / 過去2年分の遅延利息遡及請求

この記事を書いた人
行政書士 楠本浩一(行政書士法人運輸交通法務センター 代表)
パナソニックの物流部門・物流子会社にて20年以上、100拠点以上の物流法務を担当
著書:荷主と物流会社のための物流下請法と「法令違反」防止ガイド

目次

1.特定運送委託とは(取適法(旧下請法)2条5項)

(1)一文でわかる定義

製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)第2条第5項

この法律で「特定運送委託」とは、事業者が業として行う販売、業として請け負う製造若しくは業として請け負う修理の目的物たる物品又は業として請け負う作成の目的たる情報成果物が記載され、記録され、若しくは化体された物品の当該販売、製造、修理又は作成における取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託することをいう。

条文を整理すると、荷主が、自社の取引相手へ物品を届けるために外部の運送事業者へ委託する運送が特定運送委託です。

判断の核心⭕

「誰のための運送か」——取引相手への引き渡しかどうかが対象判定の基軸です。

(2)なぜ「運送」が規制対象に加わったのか

取適法(旧下請法)はもともと製造業等の「業として行う委託」を主な対象としていました。しかし物流現場では、荷主が運送会社に対して以下の問題を押しつけるケースが常態化していました。

  • 長時間の荷待ちが常態化しても対価が支払われない
  • 棚入れ・ラベル貼り・検品などを「サービス」として無償でドライバーに行わせる
  • 燃料費・人件費が上昇しても運賃の見直し交渉に応じない
  • 「いつも通り」という口頭発注で書面を一切交わさない

これらを是正するため、2026年1月施行の改正取適法(旧下請法)により、物流を業としない荷主企業の運送委託も規制対象として明示的に追加されました。

(3)荷主が対象になる理由

「うちは運送業者ではないから関係ない」という認識は誤りです。この規制の対象は委託者(荷主)の行為です。

  • 運送を業として行っていなくても対象:メーカー・流通業・小売業など、自社製品を外部へ委託して運んでいる以上、すべての荷主企業が義務を負う
  • 運送会社が承諾していても調査される:取適法は虚構規程のため公正取引委員会・国土交通省(トラック・物流Gメン)が荷主企業を直接調査する体制が整っている

2.30秒でわかる「対象か否か」の判定フロー

STEP
自社の取引相手(顧客・発注元・販売先)へ届ける運送か?

はい → STEP2へ

いいえ → 原則として対象外(自社内の移動・自社倉庫への輸送等)

STEP
販売・製造・修理・情報成果物作成のいずれかに紐づく運送か?

はい → STEP3へ

いいえ → 対象外

STEP
外部の運送会社・宅配会社・軽貨物事業者などへ委託しているか?

はい → STEP4へ

いいえ → 自社トラック・自社ドライバーのみの場合は対象外

STEP
資本金基準または従業員基準を満たすか?

はい → 【特定運送委託に該当】4条書面等の義務を確認してください

いいえ → 規模基準を満たさない場合は対象外

資本金基準・従業員基準

委託者(荷主)の資本金受託者(運送事業者)の資本金
3億円超3億円以下
1千万円超〜3億円以下1千万円以下
従業員数301人超従業員数300人以下
注意点

資本金・従業員数はいずれか一方が該当していれば適用対象です。グループ合算ではなく法人単位で判断します。「うちは中小だから関係ない」という判断は禁物です。規模差があれば中小企業同士の取引でも適用されます。

3.対象外となる運送(誤解が多い領域)

(1)自社拠点間の運送

自社工場から自社倉庫、自社店舗から別の自社店舗への移動は、取引相手への引き渡しではないため、原則として特定運送委託には該当しません。

注意⚠️

形式上は自社拠点経由であっても、実態として顧客への配送の一部を構成している場合(「経路の一部」問題)は対象になります。工場→自社センター→顧客という流れで、センター以降の部分だけ外部委託していても、全体として特定運送委託の経路の一部と判断される可能性があります。

(2)産業廃棄物の運搬

廃棄物処理法に基づく産業廃棄物の収集運搬は、販売・製造等の目的物の運送ではないため対象外です。ただし、廃棄物であっても有償で引き渡す場合(有価物)は事業活動の一環として取り扱われることがあり、慎重な判断が必要です。

(3)無償サンプル・贈答品・販促物

対価を得ずに配布するサンプル品、取引先への贈答品、販促物の配送は、販売取引に直接付随するものではないため対象外とされています。ただし「サンプル後に受注する」という営業目的が明確な場合は解釈が変わる余地があります。

(4)対象外と対象が混在する「一体発注」の落とし穴

実務でよく問題になるのが、「対象となる運送」と「対象外となる運送」を一つの発注書でまとめているケースです。例えば、顧客への配送(対象)と自社倉庫への移動(非対象)を一体として委託し「合計〇〇〇〇円」で発注している場合、対象部分の義務を個別に満たせていないと判断されます。

判断基準⭕

対象外の典型例(まとめ)

  • 自社工場 → 自社倉庫の輸送
  • 産業廃棄物の収集運搬
  • 無償サンプル・贈答品・社内配布物
  • 自社使用物品の調達運送

4.グレーゾーン|判断が分かれるケース

以下のケースは形式だけでは判断できず、取引の実態を踏まえた個別判断が必要です。

EC事業者の倉庫出荷

ECプラットフォーム(モール)経由で受注し、倉庫から直接顧客へ出荷する場合、委託者が「販売者」として対象になるか、プラットフォームが主体になるかによって判断が変わります。

3PL(サードパーティ・ロジスティクス)経由の委託

3PL業者が中間に入る場合、荷主と実運送事業者の間に直接の契約関係がないため特定運送委託には該当しませんが、明らかに荷主指示による違法原因行為に当たる場合には、貨物自動車運送事業法など別の法律が適用になる場合があります。

物流子会社への委託

グループ内の物流子会社へ運送を委託する場合、取適法第2条第10項のトンネル会社規制が適用される可能性があります。

工場→センター→顧客という多段階経路

自社工場から配送センターまでの輸送と、センターから顧客への配送を別々に発注している場合、「顧客への引き渡しを目的とする経路の一部」として全体が特定運送委託に含まれると解釈される可能性があります。

実務上の原則

グレーゾーンは形式ではなく実態で判断されます。「契約書上は別々」という形式を整えても、実態として荷主の指示が運送全体を規定しているならば、対象と判断されます。

5.特定運送委託の4類型(販売・製造・修理・情報成果物)

類型委託事業者の業種典型例現場で多いNGパターン
類型1(販売)製造業・流通業・小売業・EC通販EC事業者が宅配便で顧客へ配送委託届け先での棚入れ・陳列を無償依頼
類型2(製造)部品・機器メーカー・受注製造業者精密機器メーカーが発注元へ部品を納入委託納品先での検品・ラベル貼りを無償依頼
類型3(修理)家電・自動車・産業機械等の修理業者家電メーカーが修理品を顧客へ返送委託車上渡し契約なのに荷下ろしをドライバーに常時依頼
類型4(情報成果物)広告代理店・デザイン・印刷会社等印刷会社が商品カタログを発注元へ納品委託搬入当日に展示機材の設置まで口頭で依頼

(1)類型1(販売)EC・小売・流通業者

販売した商品・製品を顧客へ届ける運送が対象です。EC事業者が宅配便会社に委託する配送、小売業者が取引先店舗へ商品を届ける配送などが典型です。

現場の確認ポイント

届け先の店舗で「ついでに棚に並べておいて」という口頭指示が日常的に発生していないか確認してください。棚入れ・陳列・在庫整理は「附帯業務」であり、発注書への分離記載と対価の設定が必要です。「ずっとそうしてきた」では通じません。

(2)類型2(製造)部品メーカー・受注製造業者

製造した物品を発注元・納品先へ届ける運送が対象です。メーカーが製造した製品を流通センター経由で顧客へ納品する場合も含まれます。

現場の確認ポイント

製品を納品する際に「検品後にラベルを貼って」「梱包確認もしておいて」と依頼するケースが多い。ルーティン化した作業は附帯業務として別途対価が必要です。「納品書の確認程度」と「検品作業」の境界を明確にしてください。

(3)類型3(修理)家電・産業機械等の修理業者

顧客から預かった修理品を修理後に返送する運送が対象です。

現場の確認ポイント

車上渡し契約なのに、納品先で常時ドライバーが荷下ろし・設置・動作確認を行っているケースが多い。契約書上の運送条件(車上渡し・軒先渡し・設置まで)と現場の実態が一致しているかを確認してください。乖離がある場合は契約書の修正と附帯業務料の設定が必要です。

(4)類型4(情報成果物)広告・デザイン・印刷会社

ポスター・印刷物・看板・電子機器など、情報成果物を制作して納品する際の運送が対象です。

現場の確認ポイント

集配に来たドライバーに「ポスターと一緒に展示する機器も運んで」「会場に並べておいて」と当日口頭で追加指示するケース。事前に発注書で内容と対価を明示することが必要です。

6.附帯業務(棚入れ・ラベル貼り・荷待ち)は別の法律で規制される

(1)附帯業務は特定運送委託ではない

特定運送委託とは「物品を一地点から別の地点へ移動させる行為の委託」です。棚入れ・ラベル貼り・検品・荷待ちといった附帯業務は、この定義に含まれません。

整理⭕

附帯業務の無償強要は、特定運送委託(取適法(旧下請法)2条5項)の問題ではありません。根拠法が異なります。混同すると法的根拠のない主張になるため注意が必要です。
ただし、養生作業、固縛、シート掛け等は運送と一体的に行われる作業のため特定運送委託の対象になります。

(2)附帯業務の無償強要を規制する2つの法律

  • 物流特殊指定(独占禁止法に基づく特殊指定):荷主が物流事業者に対して、不当に低い対価で役務を提供させること、正常な商慣習に照らして不当な利益を提供させることを禁止しています。棚入れ・ラベル貼り・荷待ちの無償強要はこの規制の対象です
  • 貨物自動車運送事業法第64条(荷主の責務):荷主は、その行為が自動車運送事業者の附帯作業の強要につながらないよう努めなければならないと定めています。

(3)現場への影響——規制される行為は変わらない

根拠法は特定運送委託ではありませんが、荷主が運送会社に附帯業務を無償で行わせることが法的に問題であるという結論は変わりません。物流特殊指定や貨物自動車運送事業法としての取適法(旧下請法)という別の規制枠組みによって、同じく禁止されています。

現場でこれが問題になる構図は決まっています。

朝早い入荷時間に合わせてドライバーが到着し、荷下ろしが終わったあと「棚に入れておいて」「ラベルを貼っておいて」という指示が現場担当者から入る。ドライバーは断れない空気の中でそれをこなす。荷主側は「ずっとそうしてきた」と思っている。これが物流特殊指定の違反状態です。

(4)発注書への記載と対価設定が必要な理由

附帯業務を発注書に明示し、対価を設定することは、取適法(特定運送委託)の義務ではありません。しかし物流特殊指定・貨物自動車運送事業法の観点から、無償強要を避けるために実務上必要な対応です。

発注書の分離記載|具体例
作業内容根拠規制発注書への記載例
棚入れ物流特殊指定・役務提供委託棚入れ作業(品番〇〇、〇個所)〇〇円
ラベル貼り物流特殊指定・役務提供委託ラベル貼付作業(〇〇品、〇枚)〇〇円
検品物流特殊指定・役務提供委託検品作業(外観確認、〇点)〇〇円
荷待ち物流特殊指定荷待ち補償(1時間あたり〇〇円)

7.荷主が負う4つの義務(4条書面・60日・保存・遅延利息)

(1)発注内容の書面化(4条書面)

運送委託の発注に際して、以下の事項を書面(または電磁的方法)で明示することが義務付けられています。

  • 委託する運送の内容(品目・数量・届け先)
  • 運賃・料金の額
  • 支払期日
  • 附帯業務がある場合はその内容と対価
よくあるNG例❌
  • 「いつも通りの条件で」という口頭指示のみ → 4条書面なし、違反
  • 「運送業務一式 〇〇円」という記載 → 附帯業務の内容・対価が不明確、記載不備
  • 既存取引で書面を一度も交わしていない → 継続取引でも書面義務は毎回発生

(2)支払期日の設定(60日ルール)

運送サービスの提供を受けた日(引き渡し完了日)から60日以内に支払期日を設定することが義務です。月末締め翌々月末払いというサイクルは、引き渡しのタイミングによっては60日を超える場合があり、注意が必要です。

(3)書類の作成・保存(2年間)

発注書・受領書・変更記録などの関連書類を、運送完了後2年間保存する義務があります。公正取引委員会の調査が入った際に書類が存在しない場合、違反の認定につながります。

(4)遅延利息の支払(年14.6%)

支払期日を過ぎた場合、年率14.6%の遅延利息を支払う義務があります。運送会社側から請求がなくても義務として発生します。過去2年分が遡及して請求される可能性もあります。

8.禁止される行為(買いたたき・荷待ち・無償附帯作業など)

(1)協議なき一方的な価格決定

燃料費・人件費が上昇しているにもかかわらず、「価格の見直しはしない」という姿勢で交渉を拒否することは禁止されています。「昨年と同じ条件で」という発注を繰り返すだけでは不十分で、協議の機会を提供し、その記録を残すことが求められます。

(2)不当な減額

いったん合意した運賃を後から一方的に引き下げることは禁止です。「量が減ったから単価も下げてほしい」「競合他社が安いから合わせてほしい」という形での一方的な減額要請はNGです。合意の形をとっていても、実態として断れない状況での合意は違反とみなされる場合があります。

(3)買いたたき

合理的な根拠なく、市場価格・原価水準を著しく下回る運賃を設定することです。「うちのような大口顧客だから当然」という論理は通じません。価格の妥当性を説明できる根拠を持つことが必要です。

(4)荷待ち・無償附帯作業の強要

これが最も現場で問題になる禁止事項です。

  • 発注書に記載のない荷待ち時間に補償しない
  • 棚入れ・ラベル貼り・検品などを「運送の範囲内」として無償で実施させる
  • 荷下ろし後の片付け・清掃を当然のこととして求める
  • 燃料費上昇を無視した運賃のまま発注し続ける

(5)不当な利益提供要請・返品・受領拒否

協賛金・キャンペーン費用の一部負担・物品の提供など、運送委託とは無関係な利益の提供を求めることは禁止です。また、合理的な理由なく、いったん受け取った物品の返品を求めたり、受け取りを拒否したりすることも禁止されています。

9.貨物自動車運送事業法との関係(2026年4月施行)

2025年4月施行の改正貨物自動車運送事業法(トラック法)により、荷主には運送事業者への書面交付義務が別途課されました。

重要:2つの書面義務は別物です

取適法(旧下請法)下請法の4条書面と貨物自動車運送事業法の書面交付義務は、根拠法・目的・記載要件がそれぞれ異なります。一方を満たせば他方も満たすというわけではありません。

実務的には、両法の要求事項を統合した発注書フォーマットを設計することで、管理コストを抑えることができます。電磁的方法(メール・クラウド共有など)による交付については、それぞれの法律で承諾の取得方法が異なる点にも注意が必要です。単なる書式変更ではなく、購買管理のワークフローに物流委託を組み込む設計思想が求められます。

10.公正取引委員会・国土交通省の合同調査で実際に見られるポイント

実務情報|合同荷主パトロールとは

公取委と国交省は「合同荷主パトロール」と呼ばれる調査を実施しており、荷主企業の発注実態を直接確認します。調査官が物流現場に直接赴き、発注書や支払記録・価格交渉履歴の提出を求める体制が整っています。

実際に指摘が集中する事項は以下の4点です。

  • 口頭発注の常態化:担当者間の電話やLINEで完結し、発注書が存在しないケース。「長年の取引で信頼関係がある」という説明は通じません
  • 附帯業務の無償依頼:棚入れ・ラベル貼りが発注書に記載されておらず、現場の慣行として無償で行われているケース。担当者が「サービスとしてやってもらっている」と認識していても違反です
  • 価格交渉履歴の不存在:燃料費上昇や最低賃金引き上げの局面で、価格改定要請に対して何らの協議も行っていないケース。協議の記録(日時・出席者・内容・結果)がなければ「協議に応じなかった」と判断されます
  • 支払サイトの問題:月末締め翌々月末払いという慣行が継続しており、60日超えが常態化しているケース

11.この法律で企業が変えるべきこと

特定運送委託への対応を「書式変更のコンプライアンス案件」として処理しようとすると、発注書のフォーマット変更程度で終わります。しかしそれでは、次の調査・次の改正でまた同じ問題が繰り返されます。根本的に変えるべきは発注のやりかた・設計です。

発注プロセスの見直し

多くの荷主企業では運送委託の発注が「現場の慣行」に任されており、本社の調達・購買部門が関与していません。運送委託を購買管理の枠組みに組み込み、発注書の標準フォーマット・承認フロー・記録保管ルールを整備することが第一歩です。

附帯業務の棚卸し

全国の物流拠点・取引先ごとに「ドライバーが実際に行っている作業」を洗い出す必要があります。本社が認識していないレベルで附帯業務が発生しているケースが、100拠点規模の企業では珍しくありません。現場に任せたままでは実態把握すらできません。

価格交渉の仕組み化

一度決めた運賃を「原則として変えない」という文化を持つ企業は多い。しかし取適法(旧下請法)の枠組みでは、コスト変動に応じた価格協議を行い、その記録を残すことが義務です。「毎年〇月に運賃見直し協議を実施する」というルールを制度化することが必要です。

物流コストの再設計

附帯業務の有償化・運賃の適正化を進めると、物流コストが表面上増加します。しかしこれは「増加」ではなく「コストの可視化」です。これまで無償で行われていた作業の対価が明示されるだけです。この機会に物流コストをサービス内容ごとに分解し、適正な発注設計を行うことが中長期的な競争力につながります。

12.このまま放置するとどうなるか

公正取引委員会の調査が入った場合、対応の段階は以下のように進みます。

①是正指導・注意 → ②改善が見られない場合は勧告・社名公表 → ③さらに重大な違反があれば独占禁止法の排除措置命令の適用の可能性もあります。

注意すべきは遡及適用の問題です。違反状態が継続していた期間の遅延利息(年14.6%)は、過去分について一括請求される可能性があります。発注書が存在しない状態で2年間取引が続いていた場合、その期間全体が対象になりえます。

重要

昔から継続してやっていたといった事情は、調査において考慮されません。現在の発注実態を早期に確認し、問題があれば自主的に是正することが、リスクを最小化する唯一の方法です。

13.よくある質問(FAQ)

Q:特定運送委託とは簡単にいうと何ですか?

荷主が自社の取引相手へ物品を届けるために外部の運送会社へ委託する運送のことです。販売・製造・修理・情報成果物作成の4類型があります。「運送会社の問題」ではなく、荷主の発注行為を直接規制する制度です。

Q:自社のトラックで配送している場合は対象ですか?

外部の運送事業者への委託ではないため、自社トラック・自社ドライバーによる配送は特定運送委託の対象外です。ただし、一部を外部委託しているルートがあれば、その部分は対象になります。

Q:グループ会社(物流子会社)への委託はどう扱われますか?

グループ会社(物流子会社)が資本金3億円以下(従業員300人以下)の場合でもトンネル会社規制が適用され親会社の資本金(もしくは従業員数)で特定運送委託に該当と判断される可能性があります。

Q:宅配便(ヤマト・佐川など)を利用している場合は?

宅配便会社も運送事業者であるため、規模基準を満たせば対象です。

Q:附帯業務の有償化を求めたら取引を切られそうで怖い。どうすればよいですか?

一方的に「来月から有償にします」と通告するのではなく、「法的義務として書面に明示する必要がある」という前提を共有した上で協議することが現実的です。適切な移行期間を設けて合意形成を進めることをお勧めします。運送会社側も「言いたいけれど言えない」という状況にある場合が多く、荷主側から切り出すことで関係改善につながるケースもあります。

Q:価格交渉の記録はどのように残せばよいですか?

協議の日時・出席者・提案内容・協議結果を記録した書面を作成し、メールで相手方に送付して確認を取る方法が有効です。「議事録を送ります」という一通のメールが、調査時の証拠として機能します。

14.まとめ|特定運送委託への対応で企業が問われること

  • 特定運送委託は、多くの荷主企業が対象になる——「運送会社の問題」ではなく「荷主の発注行為を規制する法律」
  • 現場の慣行として続いてきた口頭発注・無償附帯業務・支払遅延が「違反」として行政調査の対象になる
  • 違反が継続していた期間の遅延利息(年14.6%)は過去分を遡及して請求される可能性がある
  • 対応の起点は「自社の発注実態の棚卸し」——発注書の有無・附帯業務の有無・支払サイトの確認から始める

15.取適法(旧下請法)の対応状況を整理したい企業へ

制度改正により、物流取引における荷主企業の責任範囲は大きく変化しています。契約書の整備だけでなく、発注条件や現場の運用実態まで含めて整理しておくことが重要です。

行政書士法人運輸交通法務センターでは、当法人が独自に開発した50項目のチェックリストに基づき、現在の制度対応リスクを整理する診断を実施しています。発注条件、契約内容、運用実態を横断的に確認し、制度改正後の是正勧告リスクの有無を客観的に可視化します。

自社の対応状況を整理したい場合は、下記物流下請法リスク診断を参照してください。

診断だけではなく、根本的に解決したい方は、物流ガバナンス設計プロジェクトを参照してください。

16.監修者紹介・法人紹介

監修者:行政書士 楠本 浩一(くすもと こういち)
行政書士法人 運輸交通法務センター 代表社員/行政書士
著書『荷主と物流会社のための物流下請法と「法令違反」防止ガイド

行政書士 楠本浩一は、物流分野における取適法(旧下請法)の実務に取り組む物流法務の実務家です。著書荷主と物流会社のための物流下請法と「法令違反」防止ガイドを出版し、物流分野における法令遵守とガバナンス設計を体系化してきました。

パナソニックの物流部門において物流法務を専任で担当。その後、物流子会社へ出向し、同社においても物流法務の責任者を務めました。荷主側と物流会社側の双方で法務責任を担い、契約設計、委託構造、運用統制までを含む実務を20年以上にわたり経験してきました。

主な実務領域

🟦物流発注契約の設計 ・委託スキームの構築 ・元請・実運送会社との法的整理
🟦契約と現場実態の乖離是正 ・取適法(旧下請法)および物流特殊指定対応


これまでに全国100か所以上の物流拠点に入り、倉庫・輸送・積込・待機・附帯作業の実態を確認。契約書の条文と現場の間にある運用上の隔たりを修正する実務を積み重ねてきました。

物流トラブルの多くは運送会社側ではなく、荷主側の発注設計とガバナンス構造に起因しています。制度は
守るものではなく、設計するもの、この視点から物流・運送業専門の行政書士へ転身し活動しています。

講師・掲載実績

 東海電子主催セミナー講師SMBCコンサルティング【NETPRESS】日本実業出版社【企業実務】物流ニッポン物流ウイークリープレジデント東洋経済等多数

行政書士法人 運輸交通法務センター

行政書士法人 運輸交通法務センターは、その名称の通り、運送・物流分野に特化した専門家集団です。

行政書士の独占業務である許認可手続にとどまらず、行政書士の「外側」にある非独占領域、すなわち荷主企業向けの物流ガバナンス構築に重点を置いています。

専門領域
  • 荷主側の物流発注設計 ・契約と現場運用の整合
  • 待機時間・附帯作業を含めた実務構造の見直し
  • 「物流下請法」を軸としたガバナンス設計

製造業・流通業・小売業といった荷主企業に対し、問題が起きてから対処する事後対応型ではなく、問題が起きない構造を先につくる事前設計型(予防型)の物流法務を提供している点が最大の特徴です。

各行政書士には専属の一般職員が付き、書類作成・情報整理・進行管理を分担。特定の担当者に依存せず継続的に案件を進められる体制を整えています。

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当法人が提供するサービス

1.物流下請法リスク診断

荷主企業の物流取引に潜む法務リスクを整理する「物流下請法リスク診断」。取適法(旧下請法)・物流特殊指定を踏まえ、発注構造・契約・現場運用を50項目チェックリストで診断します。製造業・流通業・小売業向け全国対応します。

2.物流ガバナンス設計プロジェクト

物流特殊指定・取適法(旧下請法)に対応し、発注構造から見直す実務支援。荷待ち・附帯作業・価格決定の問題を「現場対応」ではなく「設計」で解決します。制度改正後の是正勧告リスクに備えたい荷主企業向けのプロジェクトです。
物流ガバナンスを、1年間で企業内部に構築し、外部に依存しない、自走できる体制をつくります。

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