私は日々、運送会社の社長の方々とお会いしていますが、点呼に関する理解が、飲酒していなければ良い、アルコールチェックさえやっておけば十分というレベルで止まっている経営者がある一定数いらっしゃいます。これで本当にいいのでしょうか。点呼というのが本当に、何を意味するのか今回はしっかりと考えていきたいと思います。
点呼とは、単なる飲酒対策のためのアルコールチェックではなく、運送事業者が「ドライバーの命と事業を守る最後の砦」として国から義務付けられている法的管理行為のことなのです。まずは、この本質を理解しないままでは、いずれ法令違反の温床となり、会社は静かに、しかし確実に崩れていってしまいます。
もう一度点呼という言葉の意味を考えていきましょう。点呼とは、運送事業者が運行の安全性を確認し、運転者を出発させるか出発させないかという最終判断を下す安全管理行為です。言い換えれば、今日、このドライバー行かせていいのかを経営側が自ら判断するプロセスです。アルコールチェックは点呼の一つの要素にすぎず、点呼の目的は酒気帯び防止ではなく事故を未然に防ぐ経営判断にあります。
法的根拠は、貨物自動車運送事業輸送安全規則第7条です。
第7条(点呼)※要約事業者は、運転者(ドライバー)の乗務の開始及び終了に際し、点呼を行い、必要な指示を与え、及び乗務の状況その他の必要な事項を把握しなければならない。
さらに同規則第7条第4項では、酒気帯びの有無を確認し保存する義務が定められています。つまり、酒気帯び確認は点呼の中の1項目でしかありません。にもかかわらず、アルコールチェッカーさえ置いておけばとかアルコールチェッカーを吹く呼気検査だけやっておけばといった、それで点呼を果たしたつもりでいる運送会社も見受けられます。中には、早朝は運行管理者が出勤できていないのでドライバーが1人でアルコールチェッカーを吹いて値の画像だけをLINEで運行管理者に送っているだけ、といったことで点呼はOKだと思っていないでしょうか。
厳しくいいますが、これは、法律の趣旨を理解していないというよりも、自社のドライバーの命、貸切バスやハイヤーなどの旅客運送事業ではお客様の命を守る基本動作を軽んじていると言われても仕方がありません。
再確認です。点呼とは、ドライバーが安全に運転できる状態であるかを確認する行為です。疾病、疲労、睡眠不足、服薬、精神状態、ストレス、無理な運行指示、積載状況、道路状況、気象条件──これらを総合的に判断し、運行させるか止めるか、経営側が最終判断するのです。点呼簿とは、単なる書類ではなく、経営者が安全管理体制を機能させた証拠です。監査で点呼が一番重点的に見られる理由はそこにあります。
点呼が形骸化している会社の共通点は明らかです。
「忙しい」「ドライバーが嫌がる」「昔からこうだ」──こうした言い訳の積み重なってしまっていると、必ず事故と処分に直結します。行政処分、損害賠償、風評、ドライバーの離職。会社は静かに、しかし確実に崩壊します。事故が発生したとき、私は知らなかった、アルコールチェックはしていたでは通用しません。なぜなら、点呼は安全を管理する義務であり、知らない=管理できていないからです。
日本郵政グループでも、点呼の本質を理解しないまま「普段お酒を飲まない人はアルコール検査を省略してよい」といった独自ルール(ローカルルール)が横行し、社内で慣例として通用していた事案が明らかになりました。法律では全運転者が客観的方法によりアルコールチェックを受けることが義務であるにもかかわらず、組織として勝手に基準を緩和し、運行可否判断という点呼の重要な役割を会社ぐるみで放棄してしまっていました。その結果、アルコール検査の未実施や形式的点呼が常態化し、監督官庁から許可取り消しという厳しい行政処分が下されました。
この事実は、点呼を軽視した瞬間に、いかに企業ブランドと社会的信用が脆く崩れ落ちるかを示しています。不適切点呼によって運送業の許可が取り消され、事業継続の根幹が揺らいだ例を見れば、点呼が単なる形式でないことは明白です。ローカルルールは法令に優先しません。点呼を勝手に緩めた瞬間に、企業は運送業から退場を迫られます。安全は義務であり、そこに交渉の余地はありません。
一方、強い運送会社は点呼を単なる義務ではなく安全文化として根付かせています。運行管理者が現場の変化を吸い上げ、睡眠・健康状態を把握し、荷主との調整にも躊躇しない。無理な運行を排し、ドライバーや乗客の命を守る。その結果、事故が減り、行政処分が無くなり、荷主から信頼が高まり、優秀な人材が集まります。点呼はコストではなく、企業価値そのものなのです。
改めて運送事業者の皆様へ
点呼とは、出発しますか?ではありません。出発させる責任を負えますか?という問いです。
アルコールチェッカーを確認して満足している会社は、まだスタート地点にも立っていません。点呼の本質は、命と事業を守る経営判断であり、リスクを見抜き、止める力を持つかどうかです。ここを理解できる会社だけが、これからの物流改革時代に生き残ります。
最後に、もう一度原点に立ち返りましょう。
点呼とは、法律に押し付けられた作業ではありません。
ドライバーの命、乗客の命、そして会社の未来を守るために、経営者自らが毎日出発させる覚悟を確認する行為です。
形だけの点呼は、形だけの安全です。
アルコールチェックの数値に安心して、疲労や睡眠不足、心身の異変に目を向けなければ、いずれ会社は大切な人と信用を同時に失います。日本郵政の例が象徴する通り、ローカルルールで安全を緩めた瞬間、許可もブランドも社会的地位も、容赦なく剥ぎ取られます。
もし今、点呼が作業になってしまっているのであれば、今日から経営判断に戻しましょう。
もし今、現場任せになっているのであれば、経営者が先頭に立って点呼の文化をつくっていきましょう。
安全は、コストではありません。
安全は、信用です。安全は、競争力です。安全は、企業価値です。
点呼は、運輸事業者の覚悟です。
出発させる責任を負えるかという問いに、毎日正面から向き合える会社だけが、激変する物流の時代で生き残ります。
ドライバーの安全と、会社の未来は、点呼の質と正確さに反映します。
今日の点呼が、あなたの会社の明日につながっていきます。
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