取適法(旧下請法)の特定運送委託とは

この記事は、公正取引委員会の情報をもとに作成しております。

令和7年10月28日と29日に地方運輸局のトラック・物流Gメンと公正取引委員会による大規模な合同荷主パトロールが実施されました。ここで公正取引委員会が取引適法の対象取引に新たに加わる特定運送委託取適法の内容について荷主企業に説明が行われました。

多くの荷主企業からは、国土交通省のトラック・物流Gメンのパトロールに公正取引委員会も一緒に来ていると言うことに対してかなりインパクトがありました。取適法(旧下請法)に特定運送委託の分野が加わるということに対して、まだイメージを持たれてない荷主様が多く、新たな対応が必要であるということが浮き彫りになってきました。

目次

1.特定運送委託とは

特定運送委託とは現在下請法で規定されている4つの対象累計(①製造委託、②修理委託、③役務提供委託、④情報成果物作成委託)に加えて、新しく特定運送委託が追加されたことになります。特定運送委託とは「発荷主が、自社の事業のために行う物品の運送を運送事業者に委託する取引のこと」と指しています。

2.特定運送委託が取適法に追加された背景

もともと発荷主から元請運送事業者への運送委託は下請法の対象外でした。立場の弱い物流事業者が積み込み、積み下ろしや長時間の荷物を無償で行わされているなど、社会問題が顕在化しています。また、トラック運送事業者の軽油価格や人件費の上昇による価転嫁ができている割合は、全業種の最下位(価格交渉促進月間[2025年3月]の結果による)で運賃を交渉で決めると言う商習慣がなく、発荷主からの提示運賃で取引されてきた例が多くありました。

今回の改正で取適法の規制に加えることによって、きっちり対等の立場で協議を行って運賃を決めるといった商習慣を定着させる必要があります。資本金の金額にこだわらず、価格転嫁を進めていく必要があるとして、資本金以外にも従業員の数によって適用取引となることが追加されています。

3.特定運送委託の4つの類型

この特定運送委託には累計が4つあります。

類型1

累計1の発荷主は製造業や流通業、小売事業者やインターネット通販事業者をイメージしてください。事業者(企業)や一般消費者へ販売するための商品の運送を委託する場合にあたります。

類型2

累計2の発荷主は部品メーカー等をイメージしてください。事業者(企業)等の製造委託先に部品や材料、半完成品等の運送を委託する場合にあたります。

類型3

累計3の発荷主は修理を行う事業者をイメージしてください。事業者(企業)等の修理委託先に修理した商品や機械、部品等の運送を委託する場合にあたります。

類型4

累計4の発荷主はポスター、広告販売促進物等の製作を請負う広告代理店や制作会社をイメージしてください。広告主(企業)等へ情報成果物の運送を委託する場合にあたります。

発荷主がどのような委託を行っているかで、類型が1・2・3・4に分かれています。これに当てはまる取引をすると、特定運送委託が適用されます。

従来の下請法にも運送委託が適用されると言うことになっていました。今回の特定運送委託と従来の役務提供委託での運送委託との違いについて説明していきます。今まで下請法の対象となっていたのは、元請運送事業者から下請運送事業者に対して運送を再委託をする取引が役務提供委託の一部として下請法の対象になっていました。これは業として行う運送会社が自社の委託を再委託するときに適用されたものです。発荷主(製造業の場合)は製造を業として行っていますが、運送は業として行っていなかったため下請法の対象ではありませんでした。これが今回の取適法により特定運送委託として業として運送を行っていない発荷主から運送事業者への運送委託が新たに追加され、運送委託の範囲が拡大されたことになります。これが今までの下請法と大きく異なる点です。

4.対象となる発荷主(委託事業者 旧親事業者)・運送事業者(中小受託事業者 旧下請事業者)

取適法の特定運送委託が適用されるかどうかは、発荷主(委託事業者)と運送事業者(中小受託事業者)の資本金の額または従業員の数で決まります。資本金の額が大きいもしくは従業員の数が多い発荷主を委託事業者と呼び、資本金の額が低いもしくは従業員の数が少ない運送事業者を中小受託事業者と呼びます。(具体的には、下記の表による)資本金3億円超の初荷主から資本金3億円以下の運送事業者に運送委託する場合は、取適法の対象になって規制がかかります。

5.発荷主は何を守らないといけないのか

取適法の運送委託には4つの義務と11の禁止行為があります。この11の禁止行為のうち、①受領拒否、②返品、③有償支給原材料等の早期決済の禁止は製造委託・修理委託のみに関する禁止行為ですので、特定運送委託としては対象外になります。残りの8つの禁止行為4つの義務が特定運送委託で遵守しなければならない事項です。

これらは従来からの下請法の規定にあるものと同じものですが、鳥適法になってから、新しい禁止行為として協議に応じない一方的な代金決定の禁止が加わりました。

運賃を決める際、運送事業者から価格の見直しの協議を求められた場合にきっちりとその運賃・附帯料金の見直しの協議に応じてお互いに合意した上で代金を決めましょうと言う内容です。協議をしないで一方的に価格を決めてしまう、もしくは値上げを一切認めないと言うことをしてはいけませんよと言うことです。

また従来の下請法から一部改正され、禁止行為の1つである支払遅延の中に手形払いの禁止が加わりました。これまでは手形払いに関しては、支払期日60日以内に限って認められていました。今後新しい取適法では、手形で委託代金を支払うことは認められなくなりました。これが禁止行為の支払遅延の中に加わりました。

発荷主は取適法の特定運送委託のココに注意せよ

①4つの義務のうち、発注内容の明示義務

事業者との契約を締結するのはもちろんのこと。日々の車両の数や委託する物量に関して書面もしくは電磁的方法で発注内容明示しなければなりません。

②4つの義務のうち、支払い期日を定める義務

運送が終了した後、60日以内で支払い期日を設定して、発注時にその支払い期限を明示する必要があります。

③11の禁止行為のうち、協議に応じない一方的な代金決定の禁止

運送事業者から価格交渉を求められた場合は、荷主側としては真摯に対応して価格を決定する必要があります。この際に競技の場を持たなかったり、全く値上げを受諾する意思がない場合は、協議に応じない一方的な代金決定の禁止となってしまいます。

④11の禁止行為のうち、不当な経済上の利益の提供要請

委託先の運送事業者に対して積み込み、積み下ろし等の付帯業務を無償で、行わせる場合は、不当な経済上の利益の提供要請の禁止に該当する恐れがあります。

⑤11の禁止行為のうち、不当な給付内容の変更及びやり直し

長時間の荷待ちが常態化していてその対価が支払ってていない場合は、不当な給付内容の変更及びやり直しの禁止に該当する恐れがあります。

*令和7年6月24日公正取引委員会発表 令和6年度における荷主と物流事業者と取引に関する調査結果、及び優越的地位の濫用事案の処理状況についての中で荷待ちは、不当な給付内容の変更及びやり直しに該当すると記載されています。

この④と⑤は昨今の物流業界で問題になっており、運送事業者がトラックを配車したにもかかわらず積み込み先の倉庫や配送先の現場で長時間の荷待が行われている現状があります。また注内容で取り決められてないのに、積み込みや積み下ろしをドライバーに無償でさせていると言うことに関して、問題意識が高まっていますので、今回の特定運送委託で禁止行為の対象となっていきます。

7.公正取引委員会・中小企業庁・国土交通省(トラック・物流Gメン)の面的執行の強化

現在、トラック・物流Gメンが附帯業務・長時間の荷待ちについて、運送業界における取引の適正化に取り組んでいます。そういった中で公正取引委員会からが所管する取適法が新しくできて公正取引委員会が指導権限を持っています。この面的執行の強化によって、公正取引委員会や中小企業庁以外にトラック・物流Gメン(国土交通省所管)が取適法の違反行為に対して指導を行うことができるようになります。

8.荷主が物流現場に対して負うべき責任

今回の特定運送委託が取適法に加わったことは、単なる規制範囲が拡大されただけでばなく、荷主が物流の現場に対して負うべき責任の所在を明確にしようとする国の強い意思が現れたものだといえます。これまで荷主企業の多くは、荷待ちや無償作業などの問題を運送会社の努力不足と捉え、実態を十分に把握しないまま取引を続けてきました。しかし、取適法が荷主と運送事業者の関係を直接的に規律し始めたことで、荷主が現場の運用を知らないまま発注することそのものが大きなリスクへと変わりつつあります。

また、公正取引委員会という強い権限を持って優越的地位の濫用を取り締まる機関が物流分野に深く関与することで、従来とは比較にならない厳しさで取引実態が監視される時代に入りました。長時間荷待ちの有無、契約にない附帯業務、支払期限の設定、価格転嫁に関する協議の姿勢など、すべてが荷主企業の経営責任として問われることになります。取適法の適用は、単にコンプライアンスの範囲を超え、サプライチェーン全体の信頼性や企業価値にも直結する重大なテーマです。

荷主企業が今求められているのは、単なるルールの理解ではなく、自社の物流取引を経営課題として捉え直す姿勢です。発注・契約・支払・現場運営までを一体で見直し、運送事業者との協議を通じて健全な取引環境を構築していくことが、これからの物流ガバナンスには不可欠です。特定運送委託の追加は、荷主側が物流を外注して終わりという従来の思考から脱却し、責任ある発注者としての態度を持つべきことまでが要求されるようになってきました。

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