物流の主語が、運ぶ側だけではなく、発注する側にも移り始めています。2026年の総合物流施策大綱を荷主企業の視点で読むと、この点がはっきり見えてきます。
この記事を書いた人
行政書士 楠本浩一(行政書士法人運輸交通法務センター 代表)
パナソニックの物流部門・物流子会社にて20年以上、全国100か所以上の物流拠点に入り、契約、発注、支払、附帯作業、荷待ち、荷役、委託先管理の実務を確認してきました。
著書:荷主と物流会社のための物流下請法と「法令違反」防止ガイド
1.結論|物流の主語が変わった

2026年の総合物流施策大綱で見落としてはいけないのは、物流問題の扱い方が変わった点です。物流の問題は、運送会社側の供給力だけでなく、取引条件や商慣行の問題としても明確に扱われるようになりました。
これまでの物流政策では、「どうすれば限られた人員と車両でより多く運べるか」という観点が強く出ていました。今回の大綱では、それに加えて、なぜその運び方になっているのかまで踏み込んでいます。
問われているのは、「なぜその運び方になっているのか」です。
運ぶ側だけでなく、発注する側の判断も問われるようになりました。
2.前回の総合物流施策大綱から何が変わったのか
前回の総合物流施策大綱では、物流DX、標準化、労働力対策が柱とされていました。しかし、現場の課題は残りました。
背景には、物流会社だけでは変えられない事情があります。やるべき施策は示されていました。しかし、荷主側の発注条件や納品条件を誰がどう見直すのかまでは、今回ほど前面に出ていませんでした。
供給側の改革だけでは足りなかった。今回の大綱は、その点を強く意識しています。
3.2026大綱で注目すべき第2の柱

今回の大綱の核心は、第2の柱にあります。「商慣行の見直し」「行動変容」「産業構造の転換」ここで、物流問題が取引条件や商慣行の問題として、より前面に出ています。
具体的に示されている内容は以下です。
ここで注目すべきなのは、施策の中身だけではありません。これらを変える主体として、荷主企業がより明確に意識されている点です。
これらの多くは、荷主企業の発注条件、納品条件、販売条件と深く関わる領域です。つまり、大綱は、物流問題を発注側・納品条件側からも見直す必要があることを、はっきり示しています。
4.2026大綱の全体像(5つの観点)
2026年大綱は、2030年度までを集中改革期間とし、物流の持続可能性を確保するための最終フェーズに入っています。2030年度には、対策を講じなければ輸送力が34%不足する可能性がある、との試算も示されています。(2022年11月11日NX総合研究所資料より)
国土交通省の公表資料では、5つの観点として、徹底的な物流効率化、商慣行の見直し等、人材の地位・能力向上と労働環境改善、標準化と物流DX・GX、サプライチェーンの高度化・強靱化が示されています。
技術だけでは、発注条件や納品条件までは変わりません。現場の運用が変わらなければ、DXや標準化も十分に効果を発揮しません。
5.荷主企業の実務にどう影響するのか

今回の総合物流施策大綱は抽象論ではありません。企業の実務に直接影響します。まず確認すべきなのは、「物流改善は物流部門だけの仕事ではない」という考え方です。
「物流改善は物流部門の仕事」だけでは、2026大綱の方向性には合いません。
今回の大綱が見直しを求めているのは、物流部門だけではありません。調達・営業・商品企画・経営企画、つまり発注と商慣行を決めている部門です。
契約について
発注について
価格について
貨物自動車運送事業法の改正により、適正原価を踏まえた運賃・料金のあり方について、今後制度面での具体化が進むことになります。荷主企業にとっても、運送会社からの価格協議にどう向き合うかが、これまで以上に重要になります。これは、荷主企業にも運賃・料金の妥当性を考え、価格協議に向き合う姿勢が求められるということです。
行政による確認について
トラック・物流Gメンにより、現場の実態は多方面から把握される体制が整っています。トラック事業者に加え、倉庫事業者も報告対象となり、取引実態は、これまでよりも外部から確認されやすくなっています。
契約・発注・価格の3つは、、今後の制度対応で避けて通れない確認項目です。
6.結論|なぜ物流ガバナンスが必要になるのか

ここまで見ると、荷主企業が向き合うべき課題ははっきりしています。政策は「何を目指すべきか」を示しています。一方で、それを自社の発注、契約、現場運用にどう落とし込むかは、各企業が考えなければなりません。
ここで必要になるのが、物流ガバナンスの設計です。
物流ガバナンスとは、物流を「運ぶ現場の問題」だけでなく、発注条件、契約内容、価格協議、現場運用を会社として管理することです。
発注、契約、現場情報を別々に扱うのではなく、会社として判断できる状態にすること。今回の大綱を荷主側から読むと、そこまで求められていることが分かります。
7.次にやるべきこと
総合物流施策大綱2026と物流効率化法により、荷主側の取組は、単なる掛け声では済まなくなっています。トラック・物流Gメンによる現場調査と倉庫事業者からの情報提供を通じ、取引実態が外部から確認されやすい段階に入っています。
問題は、「何をすべきか」ではありません。自社が今どの状態にあるのかが分からないことです。
同志社大学卒業後、パナソニックの物流部門および物流子会社にて20年以上、物流法務と契約管理に従事。荷主企業と物流会社の双方での実務経験を持ち、現場の課題と制度の両面を熟知しています。
現在は行政書士として独立し、「荷主責任」を切り口に物流コンプライアンスの実務指導・契約チェック・社内研修を展開。『物流下請法』の著者として、出版やセミナーを通じて最新の法改正や実務対応を提言し、制度改善に向けた提言活動にも取り組んでいます。荷主責任に関する実務指導の第一人者として、高い評価を得ています。







