44件のパブリックコメントを読むと、物流問題は単なる輸送力不足だけでは説明できないことが見えてきます。問題の根には、荷主側の発注方法、納品条件、時間指定、商慣行があります。
令和8年3月31日、「総合物流施策大綱(2026年度〜2030年度)(案)」に対するパブリックコメントの結果が公表されました。
寄せられた意見は44件。数としては多くありません。しかしその中身を丁寧に読み解くと、政府資料だけでは見えにくい、現場側の問題意識が浮かび上がってきます。
この記事を書いた人
行政書士 楠本浩一(行政書士法人運輸交通法務センター 代表)
パナソニックの物流部門・物流子会社にて20年以上、全国100か所以上の物流拠点に入り、契約、発注、支払、附帯作業、荷待ち、荷役、委託先管理の実務を確認してきました。
著書:荷主と物流会社のための物流下請法と「法令違反」防止ガイド
1.「輸送力不足」だけで説明できるのか
これまでの物流政策では、物流事業者側の生産性向上や輸送力確保に重点が置かれてきました。
自動運転トラックの導入。フィジカルインターネットの実現。モーダルシフトの推進。ダブル連結トラックの普及。いずれも、限られた人員と車両で、いかに多くの荷物を運ぶかという発想に近い施策です。
パブリックコメントでは、輸送力の絶対量だけでなく、納品時間の集中や時間指定のあり方が現場負荷を生んでいる、という趣旨の意見も見られました。
この指摘は、荷主側の実務を見る立場からすると非常に重要です。
輸送力は足りているのに、時間の使い方が壊れている。だから混雑が生まれ、荷待ちが発生し、ドライバーの拘束時間が延びる。問題は量ではなく、やり方にあります。
問題は、輸送力の量だけではありません。発注や納品の運用そのものにあります。
2.パブコメが繰り返した「発注」という言葉
44件の意見を通読すると、ある言葉が繰り返し出てきます。
一例を挙げます。
たとえば、週単位では一定量の需要があるにもかかわらず、1個単位で細かく発注されるため、倉庫内ではバラピッキングとなり、輸送効率の低い状態で出荷される、という趣旨の意見がありました。
これは、物流現場の実態をよく表した意見です。
問題はトラックの数でも、ドライバーの技術でもありません。荷主がどのように発注するか、その中身が物流の効率を根本から決めているという指摘です。
同様の観点から、パレット化についての意見も複数寄せられました。「パレット輸送は積載効率が下がる」「費用負担が重い」という問題提起もあった一方で、パレット化についても、費用負担や積載効率の課題を指摘する意見がある一方で、有効な施策として重視する意見もありました。両者の違いは何でしょうか。
3.納品時間の偏りと小口発注は、同じところでつながっている
納品時間の偏りと小口発注は、別々の問題に見えます。しかし、どちらも発注する側の都合から生まれやすい問題です。
「発注ロット問題」も同じです。1個単位で頻繁に発注することは、発注する側にとっては在庫リスクを下げる合理的な行動に見えます。しかしその結果として、倉庫ではバラピッキングが発生し、トラックには積載率の低い状態で荷物が乗り、ドライバーは多頻度の小口配送に追われます。
これを言い直すと、こうなります。
物流効率化の主語は、運ぶ側ではなく、発注する側です。
4.行政の回答から見える実務上の課題
パブコメに対する行政側の回答も興味深いものがあります。
多くの意見に対して、行政はこう答えています。「ご意見の趣旨については、本大綱の○○に盛り込まれております」。
これは何を意味するでしょうか。
政府は問題を認識しています。方向性も示しています。しかし「なぜそれが実行できないのか」という問いには答えていません。努力義務を課し、ガイドラインを作り、周知活動をする。ただし、政策文書だけでは、なぜ現場で実行されないのかまでは見えにくい部分があります。
5.大綱が荷主企業に突きつけているもの
令和8年4月から、物流効率化法に基づく特定荷主等への規制的措置が始まりました。一定規模以上の特定荷主等には、中長期計画の作成、定期報告、物流統括管理者(CLO)の選任が求められます。
これは単なる手続きではありません。
これは、荷主企業に対して「自社の発注や納品条件を見直すこと」を求める流れです。
6.これは他社の問題ではありません
ここまで読んで、「うちは関係ない」と感じた企業ほど、一度立ち止まって確認すべきです。
パブコメに書かれていた内容は、一部の企業の特殊な話ではありません。むしろ多くの企業に共通する日常のやり方そのものです。
これらに対して、「問題はない」と言い切れる企業は多くはありません。
そして、これらはそして、これらは、物流効率化法や取適法(旧下請法)、物流特殊指定の見直しと深く関係する領域です。
問題は、特別な場面だけで起きているわけではありません。日々の発注や納品条件の中に表れています。
ただし、確認だけで終わってしまえば、現場は変わりません。
同志社大学卒業後、パナソニックの物流部門および物流子会社にて20年以上、物流法務と契約管理に従事。荷主企業と物流会社の双方での実務経験を持ち、現場の課題と制度の両面を熟知しています。
現在は行政書士として独立し、「荷主責任」を切り口に物流コンプライアンスの実務指導・契約チェック・社内研修を展開。『物流下請法』の著者として、出版やセミナーを通じて最新の法改正や実務対応を提言し、制度改善に向けた提言活動にも取り組んでいます。荷主責任に関する実務指導の第一人者として、高い評価を得ています。







