2026年総合物流施策大綱 44件のパブコメが指摘した「物流崩壊の本当の原因」

44件のパブリックコメントが指摘した、政府の審議会では語られてこなかった物流崩壊の本当の原因。それは「輸送力不足」ではありませんでした。

令和8年3月、国土交通省等は「総合物流施策大綱(2026年度〜2030年度)(案)」に対するパブリックコメントの結果を公表しました。

寄せられた意見は44件。数としては多くありません。しかしその中身を丁寧に読み解くと、政府の審議会や有識者会議ではほとんど語られてこなかった「本当の問題」が浮かび上がってきます。

物流法務の専門家として、この44件を読みました。
正直に言います
予想以上に核心を突いた意見が並んでいました。

目次

1.「輸送力が足りない」は本当でしょうか

政府の物流政策は一貫して「供給側の改革」を中心に設計されてきました。

自動運転トラックの導入。フィジカルインターネットの実現。モーダルシフトの推進。ダブル連結トラックの普及。いずれも「いかに多くの荷物を運べるようにするか」という問いに対する答えです。

パブコメに寄せられた意見:
「物流効率化の議論において、輸送力不足が強調されているが、現場の実態を見る限り、その多くは輸送力の絶対量不足ではなく、
『物流の時間設計の失敗』によって生じている可能性が高い

この一文を読んだとき、「ようやく出てきた」と思いました。

輸送力は足りているのに、時間の使い方が壊れている。だから混雑が生まれ、荷待ちが発生し、ドライバーの拘束時間が延びる。問題は量ではなく、やり方にあります。

物流は足りないのではありません。壊れているのです。

2.パブコメが繰り返した「発注」という言葉

44件の意見を通読すると、ある言葉が繰り返し出てきます。

🟦「発注単位」
🟦「発注のロットや頻度の適正化」
🟦「発注形態」
🟦「受発注の前倒し」

一例を挙げます。

「週の需要が10パレット以上ある場合でも、1個単位で発注している例が多いのが実情。需要に応じた適切な発注単位があるにもかかわらず、それに基づいた注文がなされていないため、倉庫内では一つずつピッキングされ、バラ納品となり、輸送効率の悪いバラ積み状態で出荷されていく」

これは物流会社の現場からの声です。

問題はトラックの数でも、ドライバーの技術でもありません。荷主がどのように発注するか、その中身が物流の効率を根本から決めているという指摘です。

同様の観点から、パレット化についての意見も複数寄せられました。「パレット輸送は積載効率が下がる」「費用負担が重い」という問題提起もあった一方で、「パレタイズ化は最も効果のある施策であることは疑いようがない」という意見も出ました。両者の違いは何でしょうか。

答えは単純です。
発注する側が「物流の負荷を意識した注文の仕方」をしているかどうか、それだけです。

3.「時間設計の失敗」と「発注ロット問題」は同じ根を持っています

一見すると別々の問題に見えるこの2つは、実は同じところから生まれています。

「時間設計の失敗」とは何でしょうか。
🟦荷主が午前中に納品を集中させる慣行
🟦リードタイムを極端に短く設定する注文習慣
🟦トラック予約システムを導入しながら運用が不十分で逆に非効率になる現象
これらはすべて、発注する側の「やり方」の問題です。

「発注ロット問題」も同じです。1個単位で頻繁に発注することは、発注する側にとっては在庫リスクを下げる合理的な行動に見えます。しかしその結果として、倉庫ではバラピッキングが発生し、トラックには積載率の低い状態で荷物が乗り、ドライバーは多頻度の小口配送に追われます。

パブコメにあった表現を借りれば、
「物流改善に貢献できる割合は発注形態によるものが大きい」

これを言い直すと、こうなります。

物流効率化の主語は、運ぶ側ではなく、発注する側です。

4.行政の回答に見える「限界」

パブコメに対する行政側の回答も興味深いものがあります。

多くの意見に対して、行政はこう答えています。「ご意見の趣旨については、本大綱の○○に盛り込まれております」。

つまり、寄せられた問題提起の大半は、すでに大綱の中に
🟨「努力義務」
🟨「周知・浸透を図る」
🟨「ガイドラインを定める方向で検討を進める」

といった表現で盛り込まれているというのです。

これは何を意味するでしょうか。

政府は問題を認識しています。方向性も示しています。しかしなぜそれが実行できないのか」という問いには答えていません。努力義務を課し、ガイドラインを作り、周知活動をする。それでも現場が変わらない理由を、政策文書は説明しません。

パブコメ提出者たちが指摘した問題は、制度の欠陥ではありません。
注文の仕方、契約の曖昧さ、商慣行の固定化——これらは
企業の内部の問題だからです。行政が外から制度を整えても、企業の内部が変わらなければ、物流は変わりません。

5.大綱が荷主企業に突きつけているもの

令和8年4月、改正物流効率化法が本格施行されました。大手荷主企業には、中長期計画の作成と定期報告が義務付けられました。物流統括管理者(CLO)の選任も求められます。

これは単なる手続きではありません。

荷主企業が「自社の発注のやり方に責任を持て」という制度的な要請です。

パブコメで現場が訴えた
🟦「発注単位の問題」
🟦「時間設計の問題」
🟦「商慣行の問題」

これらはすべて、荷主企業が自社内で解決すべき課題として、法令の枠組みの中に位置づけられ始めています。

6.これは他社の問題ではありません

ここまで読んで、「うちは関係ない」と感じたのであれば、その認識が最も危ういと言えます。

パブコメに書かれていた内容は、一部の企業の特殊な話ではありません。むしろ多くの企業に共通する日常のやり方そのものです。

🟦発注の仕方は適切でしょうか。
🟦納品の時間帯は偏っていないでしょうか。
🟦契約書に書いてある内容と現場の動きは一致しているでしょうか。
🟦頼んでいる作業の範囲ははっきりしているでしょうか。

これらに対して、「問題はない」と言い切れる企業はほとんど存在しません。

そして、これらはすべて、今の法改正の対象になっている領域です。制度はすでに動き始めています。残っているのは、自社のやり方を見直すかどうか、それだけです。

まず確認すべきは、特別な分析ではありません。
✅日々出している発注書
✅納品時間の指定
✅契約書の記載内容

この3つを並べて見直すだけで、多くの問題は見えてきます。

問題は難しいところにあるのではありません。日常の中に、すでに表れています。

ただし、ここで止まってしまうと何も変わりません。次の記事では、なぜ政府がここまで踏み込んでいるのか、その背景と意図を整理します。

7.物流下請法への対応状況を整理したい企業へ

制度改正により、物流取引における荷主企業の責任範囲は大きく変化しています。契約書の整備だけでなく、発注条件や現場の運用実態まで含めて整理しておくことが重要です。

行政書士法人運輸交通法務センターでは、当法人が独自に開発した50項目のチェックリストに基づき、現在の制度対応リスクを整理する診断を実施しています。発注条件、契約内容、運用実態を横断的に確認し、制度改正後の是正勧告リスクの有無を客観的に可視化します。

自社の対応状況を整理したい場合は、下記物流下請法リスク診断を参照してください。

診断だけではなく、根本的に解決したい方は、物流ガバナンス設計プロジェクトを参照してください。

8.監修者紹介・法人紹介

監修者:行政書士 楠本 浩一(くすもと こういち)
行政書士法人 運輸交通法務センター 代表社員/行政書士
著書『荷主と物流会社のための物流下請法と「法令違反」防止ガイド

行政書士 楠本浩一は、物流分野における取適法(旧下請法)の実務に取り組む物流法務の実務家です。著書荷主と物流会社のための物流下請法と「法令違反」防止ガイドを出版し、物流分野における法令遵守とガバナンス設計を体系化してきました。

パナソニックの物流部門において物流法務を専任で担当。その後、物流子会社へ出向し、同社においても物流法務の責任者を務めました。荷主側と物流会社側の双方で法務責任を担い、契約設計、委託構造、運用統制までを含む実務を20年以上にわたり経験してきました。

主な実務領域

🟦物流発注契約の設計 ・委託スキームの構築 ・元請・実運送会社との法的整理
🟦契約と現場実態の乖離是正 ・取適法(旧下請法)および物流特殊指定対応


これまでに全国100か所以上の物流拠点に入り、倉庫・輸送・積込・待機・附帯作業の実態を確認。契約書の条文と現場の間にある運用上の隔たりを修正する実務を積み重ねてきました。

物流トラブルの多くは運送会社側ではなく、荷主側の発注設計とガバナンス構造に起因しています。制度は
守るものではなく、設計するもの、この視点から物流・運送業専門の行政書士へ転身し活動しています。

講師・掲載実績

 東海電子主催セミナー講師SMBCコンサルティング【NETPRESS】日本実業出版社【企業実務】物流ニッポン物流ウイークリープレジデント東洋経済等多数

行政書士法人 運輸交通法務センター

行政書士法人 運輸交通法務センターは、その名称の通り、運送・物流分野に特化した専門家集団です。

行政書士の独占業務である許認可手続にとどまらず、行政書士の「外側」にある非独占領域、すなわち荷主企業向けの物流ガバナンス構築に重点を置いています。

専門領域
  • 荷主側の物流発注設計 ・契約と現場運用の整合
  • 待機時間・附帯作業を含めた実務構造の見直し
  • 「物流下請法」を軸としたガバナンス設計

製造業・流通業・小売業といった荷主企業に対し、問題が起きてから対処する事後対応型ではなく、問題が起きない構造を先につくる事前設計型(予防型)の物流法務を提供している点が最大の特徴です。

各行政書士には専属の一般職員が付き、書類作成・情報整理・進行管理を分担。特定の担当者に依存せず継続的に案件を進められる体制を整えています。

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当法人が提供するサービス

1.物流下請法リスク診断

荷主企業の物流取引に潜む法務リスクを整理する「物流下請法リスク診断」。取適法(旧下請法)・物流特殊指定を踏まえ、発注構造・契約・現場運用を50項目チェックリストで診断します。製造業・流通業・小売業向け全国対応します。

2.物流ガバナンス設計プロジェクト

物流特殊指定・取適法(旧下請法)に対応し、発注構造から見直す実務支援。荷待ち・附帯作業・価格決定の問題を「現場対応」ではなく「設計」で解決します。制度改正後の是正勧告リスクに備えたい荷主企業向けのプロジェクトです。
物流ガバナンスを、1年間で企業内部に構築し、外部に依存しない、自走できる体制をつくります。

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