特定運送委託とは?【2026年版】4類型・対象外・義務・禁止行為を実務で解説

まず確認してください|あなたの会社は大丈夫ですか?

  • 運送の発注を口頭で行っている、または発注書が「一式〇〇〇〇円」になっている
  • 棚入れ・ラベル貼り・検品などをドライバーに無償で行わせている
  • 支払が運送完了日から60日を超えることがある

1つでも当てはまる場合は、特定運送委託に該当するか、また物流特殊指定など他のルールで問題がないかを見ておく必要があります。

この法律は、運送会社だけを対象にしたものではありません。荷主の発注内容、支払条件、価格協議の進め方も見られます。運送会社から強い申入れがなくても、公正取引委員会や関係行政機関から、発注内容や支払実態について説明を求められる可能性があります。


項目内容
1定義荷主が自社の販売・製造・修理・情報成果物作成に伴い、取引相手への運送を外部の運送事業者に委託する取引(取適法(旧下請法)2条5項)
2判定基準その運送が「取引相手への引渡し」に向けたものかどうかが、対象判定のポイント。
自社拠点間移動・廃棄物運搬は原則対象外
3義務4条書面(発注書)の交付 / 60日以内の支払期日設定 / 2年間の書類保存 / 遅延利息(年14.6%)
4リスク公正取引委員会からの勧告・社名公表 / 遅延利息の支払/ 取引条件の是正対応

<この記事でわかること>
【特定運送委託とは】荷主が自社の取引相手へ物品を届けるために外部の運送事業者へ委託する取引(取適法2条5項)
【対象外となる主なケース】産業廃棄物の運搬 / 自社拠点間移動 / 贈答品・無償サンプルの運送
【特定運送委託に当たらないが別の法律で規制あり】棚入れ・ラベル貼り・検品・荷待ちの無償強要(附帯業務)
【主な義務】4条書面の交付 / 60日ルール /取引記録の作成・保存 / 価格協議への対応
【放置した場合のリスク】勧告・社名公表 / 継続取引では、過去の支払遅延分について遅延利息の確認が必要になる可能性/ 契約・支払実務の見直し対応


この記事でわかること(3分結論)

特定運送委託とは何か

荷主が、自社の販売・製造・修理・情報成果物作成に伴い、取引相手への物品の引渡しのために外部の運送事業者へ委託する運送です(取適法2条5項)。2026年1月の取適法施行により、発荷主が運送事業者に委託する一定の運送取引について、4条書面、60日以内の支払、書類保存、遅延利息などの具体的な義務が課されることになりました。

規制されるのは「運送会社の行為」ではありません。「荷主の発注行為」です。

4類型はどれか

販売に伴う運送(EC事業者・メーカーが顧客へ届ける配送など)、製造に伴う運送(部品・製品を発注元へ納品する運送)、修理に伴う運送(修理品を顧客に返送する運送)、情報成果物作成に伴う運送(印刷物・ポスターなどを発注元へ納品する運送)の4つです。

対象外の主なケース

自社の工場から自社の倉庫への横持ち輸送(取引相手への引渡しではないため)、産業廃棄物の収集運搬、無償サンプルや贈答品の配送が主な対象外です。ただし、顧客への配送経路の一部を構成している場合は、自社拠点間の輸送であっても対象になります。

荷主が負う4つの義務

発注のたびに4条書面として必要な事項を明示すること、運送完了日から60日以内に代金を支払うこと、発注書・受領書などを2年間保存すること、支払が遅れた場合に年14.6%の遅延利息を支払うことです。

違反した場合のリスク

公正取引委員会・国土交通省(トラック・物流Gメン)による確認や立入調査の対象になります。違反行為が認められた場合は、指導・勧告・社名公表という流れで対応が進みます。支払遅延が継続していた場合、過去分の遅延利息(年14.6%)の支払問題が生じる可能性があります。

附帯業務(棚入れ・荷待ち・ラベル貼り)について

附帯業務の無償強要は、取適法の特定運送委託だけで判断できる問題ではありません。
取適法の対象外となる取引であっても、契約にない荷役作業や附帯業務を無償で求めていれば、物流特殊指定や貨物自動車運送事業法上の問題になる場合があります。
「取適法の対象外だから安全」とは言えません。この記事の後半で、法律ごとの違いを説明します。


この記事を書いた人
行政書士 楠本浩一(行政書士法人運輸交通法務センター 代表)
パナソニックの物流部門・物流子会社にて20年以上、100拠点以上の物流法務を担当
著書:荷主と物流会社のための物流下請法と「法令違反」防止ガイド

目次

1.特定運送委託とは(取適法(旧下請法)2条5項)

(1)一文でわかる定義

製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)第2条第5項

この法律で「特定運送委託」とは、事業者が業として行う販売、業として請け負う製造若しくは業として請け負う修理の目的物たる物品又は業として請け負う作成の目的たる情報成果物が記載され、記録され、若しくは化体された物品の当該販売、製造、修理又は作成における取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託することをいう。

条文を整理すると、荷主が、自社の取引相手へ物品を届けるために外部の運送事業者へ委託する運送が特定運送委託です。

判断のポイント

「誰のための運送か」——その運送が「取引相手への引渡し」に向けたものかどうかが、対象判定の中心になります。

(2)なぜ「運送」が規制対象に加わったのか

取適法(旧下請法)はもともと製造業等の「業として行う委託」を主な対象としていました。物流現場では、荷主側の発注条件や現場運用により、次のような問題が発生してきました。

  • 長時間の荷待ちが常態化しても対価が支払われない
  • 棚入れ・ラベル貼り・検品などを「サービス」として無償でドライバーに行わせる
  • 燃料費・人件費が上昇しても運賃の見直し交渉に応じない
  • 「いつも通り」という口頭発注で書面を一切交わさない

これらを是正するため、2026年1月施行の取適法により、製造・販売・修理・情報成果物作成に伴い、取引相手へ物品を届けるための運送委託が、新たに対象取引として追加されました。

(3)荷主が対象になる理由

「うちは運送業者ではないから関係ない」という認識は誤りです。この規制の対象は委託者(荷主)の行為です。

  • 運送を業として行っていなくても対象になり得る:メーカー・流通業・小売業などが、取引相手への引渡しに必要な運送を外部へ委託し、資本金基準または従業員基準を満たす場合には、取適法上の確認が必要になります。
  • 運送会社が承諾していても調査される:取適法では、運送会社が声を上げていなくても、発注内容や支払実態が確認される可能性があります。公正取引委員会や関係行政機関により、荷主側の発注内容や支払実態が確認される体制が整いつつあります。

2.30秒でわかる「対象か否か」の判定フロー

STEP
自社の取引相手(顧客・発注元・販売先)へ届ける運送か?

はい → STEP2へ

いいえ → 原則として対象外(自社内の移動・自社倉庫への輸送等)

STEP
販売・製造・修理・情報成果物作成のいずれかに紐づく運送か?

はい → STEP3へ

いいえ → 対象外

STEP
外部の運送会社・宅配会社・軽貨物事業者などに委託しているか?

はい → STEP4へ

いいえ → 自社トラック・自社ドライバーのみで運送している場合は対象外

STEP
資本金基準または従業員基準を満たすか?

はい → 【特定運送委託に該当】4条書面等の義務を確認してください

いいえ → 取適法上の特定運送委託には該当しない可能性があります。ただし、物流特殊指定や貨物自動車運送事業法上の確認が必要になる場合があります。

資本金基準・従業員基準

委託者(荷主)の資本金受託者(運送事業者)の資本金
3億円超3億円以下
1千万円超〜3億円以下1千万円以下
従業員数301人超従業員数300人以下
注意点

資本金基準または従業員基準のいずれかで、委託者と中小受託事業者の関係が基準に当てはまる場合、適用対象となります。グループ合算ではなく法人単位で判断します。「うちは中小だから関係ない」という判断は禁物です。規模差があれば中小企業同士の取引でも適用されます。

3.対象外となる運送(誤解が多い領域)

(1)自社拠点間の運送

自社工場から自社倉庫、自社店舗から別の自社店舗への移動は、取引相手への引き渡しではないため、原則として特定運送委託には該当しません。

注意⚠️

形式上は自社拠点経由であっても、実態として顧客への配送の一部を構成している場合(「経路の一部」問題)は対象になります。工場→自社センター→顧客という流れであれば特定運送委託の経路の一部と判断される可能性があります。

(2)産業廃棄物の運搬

廃棄物処理法に基づく産業廃棄物の収集運搬は、販売・製造等の目的物の運送ではないため対象外です。ただし、廃棄物であっても有償で引き渡す場合(有価物)は事業活動の一環として取り扱われることがあり、慎重な判断が必要です。

(3)無償サンプル・贈答品・販促物

対価を得ずに配布するサンプル品、贈答品、販促物の配送は、販売取引に直接結び付く運送ではない場合、特定運送委託に該当しないと考えられます。一方で、サンプル配布後の受注を予定した営業活動など、販売取引との関係が強い場合には、個別に確認する必要があります。

(4)対象外と対象が混在する「一体発注」の落とし穴

実務でよく問題になるのが、「対象となる運送」と「対象外となる運送」を一つの発注書でまとめているケースです。例えば、顧客への配送(対象)と自社倉庫への移動(非対象)を一体として委託し「合計〇〇〇〇円」で発注している場合、対象部分について、4条書面や支払条件などの義務を満たしているかを個別に確認する必要があります。

判断基準⭕

対象外の典型例(まとめ)

  • 自社工場 → 自社倉庫の輸送
  • 産業廃棄物の収集運搬
  • 無償サンプル・贈答品・社内配布物
  • 自社使用物品の調達運送

4.グレーゾーン|判断が分かれるケース

以下のケースは形式だけでは判断できず、取引の実態を踏まえた個別判断が必要です。

EC事業者の倉庫出荷

ECプラットフォーム(モール)経由で受注し、倉庫から直接顧客へ出荷する場合、委託者が「販売者」として対象になるか、プラットフォームが主体になるかによって判断が変わります。

3PL(サードパーティ・ロジスティクス)経由の委託

3PL業者が中間に入る場合、荷主と実運送事業者の間に直接の契約関係がないため特定運送委託には該当しませんが、荷主側の指示や条件設定が、運送事業者側の違反や過大な負担につながっている場合、貨物自動車運送事業法など別の法律が適用になる場合があります。

物流子会社への委託

グループ内の物流子会社へ委託する場合でも、資本金・従業員基準や委託内容によっては、取適法上の確認が必要です。形式上グループ会社であっても、直ちに対象外とはいえません。

工場→センター→顧客という多段階経路

自社工場から配送センターまでの輸送と、センターから顧客への配送を別々に発注している場合、「顧客への引き渡しを目的とする経路の一部」として全体が特定運送委託に含まれると解釈される可能性があります。

実務上の原則

実態として荷主の指示が運送全体を左右している場合、対象性を慎重に確認する必要があります。「契約書上は別々」という形式を整えても、実態として荷主の指示が運送全体を規定しているならば、対象と判断されます。

5.特定運送委託の4類型(販売・製造・修理・情報成果物)

類型委託事業者の業種典型例現場で多いNGパターン
類型1(販売)製造業・流通業・小売業・EC通販EC事業者が宅配便で顧客へ配送委託届け先での棚入れ・陳列を無償依頼
類型2(製造)部品・機器メーカー・受注製造業者精密機器メーカーが発注元へ部品を納入委託納品先での検品・ラベル貼りを無償依頼
類型3(修理)家電・自動車・産業機械等の修理業者家電メーカーが修理品を顧客へ返送委託車上渡し契約なのに積み降ろしをドライバーに常時依頼
類型4(情報成果物)広告代理店・デザイン・印刷会社等印刷会社が商品カタログを発注元へ納品委託搬入当日に展示機材の設置まで口頭で依頼

(1)類型1(販売)EC・小売・流通業者

販売した商品・製品を顧客へ届ける運送が対象です。EC事業者が宅配便会社に委託する配送、小売業者が取引先店舗へ商品を届ける配送などが典型です。

現場の確認ポイント

届け先の店舗で「ついでに棚に並べておいて」という口頭指示が日常的に発生していないか確認してください。棚入れ・陳列・在庫整理は運送そのものとは別の作業です。無償対応が常態化している場合は、作業範囲と対価を別途整理する必要があります。「ずっとそうしてきた」だけでは、説明としては弱くなります。

(2)類型2(製造)部品メーカー・受注製造業者

製造した物品を発注元・納品先へ届ける運送が対象です。メーカーが製造した製品を流通センター経由で顧客へ納品する場合も含まれます。

現場の確認ポイント

製品を納品する際に「検品後にラベルを貼って」「梱包確認もしておいて」と依頼するケースが多い。ルーティン化している作業は、運送とは別の作業として、範囲と対価を整理する必要があります。「納品書の確認程度」と「検品作業」の境界を明確にしてください。

(3)類型3(修理)家電・産業機械等の修理業者

顧客から預かった修理品を修理後に返送する運送が対象です。

現場の確認ポイント

車上渡し契約なのに、納品先で常時ドライバーが積み降ろし・設置・動作確認を行っているケースが多い。契約書上の運送条件(車上渡し・軒先渡し・設置まで)と現場の実態が一致しているかを確認してください。乖離がある場合は契約書の修正と附帯業務料の設定が必要です。

(4)類型4(情報成果物)広告・デザイン・印刷会社

ポスター・印刷物・看板・電子機器など、情報成果物を制作して納品する際の運送が対象です。

現場の確認ポイント

集配に来たドライバーに「ポスターと一緒に展示する機器も運んで」「会場に並べておいて」と当日口頭で追加指示するケース。事前に発注書で内容と対価を明示することが必要です。

6.附帯業務(棚入れ・ラベル貼り・荷待ち)は別の法律で規制される

(1)棚入れ・ラベル貼り・検品・荷待ちといった作業は、通常、運送そのものとは別の問題として整理されます。

特定運送委託とは「物品を一地点から別の地点へ移動させる行為の委託」です。棚入れ・ラベル貼り・検品・荷待ちといった附帯業務は、この定義に含まれません。

整理

棚入れ・ラベル貼り・検品・荷待ちといった附帯業務は、通常、特定運送委託そのものではなく、物流特殊指定・貨物自動車運送事業法・契約上の作業範囲の問題として整理されます。ただし、発注内容、代金、作業範囲の明示と結び付く場合には、取適法上の確認も必要になります。なお、養生作業、固縛、シート掛け等は運送と一体的に行われる作業のため特定運送委託の対象になります。

(2)附帯業務の無償強要を規制する2つの法律

  • 物流特殊指定(独占禁止法に基づく特殊指定):荷主が物流事業者に対して、不当に低い対価で役務を提供させること、正常な商慣習に照らして不当な利益を提供させることを禁止しています。棚入れ・ラベル貼り・荷待ちの無償強要はこの規制の対象です
  • 貨物自動車運送事業法第64条(荷主の責務):荷主は、その行為が自動車運送事業者の附帯作業の強要につながらないよう努めなければならないと定めています。

(3)現場への影響——規制される行為は変わらない

根拠法は異なりますが、物流特殊指定や貨物自動車運送事業法の観点から、荷主側の指示や負担の押し付けが問題になる場合があります。

現場でこれが問題になる構図は決まっています。

朝早い入荷時間に合わせてドライバーが到着し、積み降ろしが終わったあと「棚に入れておいて」「ラベルを貼っておいて」という指示が現場担当者から入る。ドライバーは断れない空気の中でそれをこなす。荷主側は「ずっとそうしてきた」「契約で棚入れ・ラベル貼りまでお金を払っている」と現場担当者は思っているが、契約にはこの行為はい入っていない。このような運用は、物流特殊指定上も問題になり得ます。

(4)発注書への記載と対価設定が必要な理由

附帯業務を発注書に明示し、対価を設定することは、物流特殊指定・貨物自動車運送事業法の観点から、無償強要を避けるために実務上必要な対応です。

発注書の分離記載|具体例
作業内容確認すべき制度発注書への記載例
棚入れ物流特殊指定・契約上の作業範囲棚入れ作業(品番〇〇、〇箇所)〇〇円
ラベル貼り物流特殊指定・契約上の作業範囲ラベル貼付作業(〇〇品、〇枚)〇〇円
検品物流特殊指定・契約上の作業範囲検品作業(外観確認、〇点)〇〇円
荷待ち物流特殊指定・貨物自動車運送事業法上の荷主対応荷待ち補償(1時間あたり〇〇円)

7.特定運送委託・物流特殊指定・貨物自動車運送事業法・物流効率化法の違い

同じ物流取引の場面で、複数の法律が同時に問題になります。「どの法律の問題か」を整理しておかないと、対応がずれます。

比較項目特定運送委託(取適法)物流特殊指定貨物自動車運送事業法物流効率化法
根拠法取適法(中小受託取引適正化法)2条5項独占禁止法に基づく特殊指定貨物自動車運送事業法64条ほか物資の流通の効率化に関する法律
規制の目的発荷主→中小運送事業者への取引条件を適正化する特定荷主による不公正な取引を禁止する荷主の協力義務・書面交付義務を定める積載効率向上・荷待ち時間短縮を荷主に義務づける
荷主の規模基準資本金・従業員基準(中小企業間でも適用あり)特定荷主(資本金3億円超等の大企業)規模基準なし(全荷主が対象)特定荷主(年間9万トン以上)
主な義務・禁止行為4条書面交付・60日支払・2年保存・遅延利息、買いたたき等の禁止不当な取引条件の禁止(低対価・利益提供要請・発注取消等)書面交付(2025年4月〜)・附帯作業強要につながる行為の防止・荷待ちへの配慮CLO選任・中長期計画作成・定期報告提出
附帯業務の無償強要運送委託そのものとは別問題として整理される。ただし、発注内容・代金・不当な給付内容の変更等と関連して問題になる場合がある主要な規制対象。不当な利益提供要請、低対価での役務提供要請として問題になる荷主の配慮義務、附帯作業・荷待ちに関する対応として問題になる直接の禁止規定ではなく、荷待ち時間・荷役等時間の短縮対象として問題になる
違反した場合指導・勧告・公表、遅延利息の支払、報告・検査対応、一定の場合は罰則公正取引委員会による調査・注意・警告・独禁法上の措置国土交通省による働きかけ、要請、勧告・公表等指導・助言、勧告・命令・公表、一定の場合は罰則
所管機関公正取引委員会・中小企業庁(国交省と連携)公正取引委員会国土交通省国土交通省・経済産業省
施行時期2026年1月施行(特定運送委託の追加)施行済み(随時改正)2025年4月施行(書面交付義務)2026年4月施行(特定荷主への規制的措置)
この表を使う際の補足

棚入れ・ラベル貼り・荷待ちを無償で強要している場合、物流特殊指定と貨物自動車運送事業法の双方が問題になる可能性があります。取適法(特定運送委託)との関係も含めて、発注内容・代金設定・作業範囲の整理が必要です。「どれか1つに抵触していなければよい」という考え方は通じません。

貨物自動車運送事業法の書面交付義務(2025年4月施行)と取適法の4条書面は求められる記載内容が異なりますが両方を満たす内容にしておればそれぞれ別の書面を交付する必要はありません。

物流効率化法は、特定荷主に対してCLO選任・中長期計画・定期報告を義務づけますが、運送事業者との個別取引を直接規制するものではありません。ただし、物流効率化法に基づく社内対応と、取適法・物流特殊指定の取引適正化は、荷主企業の物流部門が同時に取り組む必要があります。

8.荷主が負う4つの義務(4条書面・60日・保存・遅延利息)

(1)4条書面に記載が必要な項目

取適法4条1項が荷主に求める記載事項は次のとおりです。

  • 品目・数量・重量:「○○製品 △△個」という形で明記します。「一式」という記載では品目・数量の明示義務を満たしません。
  • 引渡しの場所・日時:届け先の住所と、引渡し完了の期日または期間を記載します。「翌営業日午前中」ではなく「〇月〇日 午前10時まで」という形が明確です。
  • 引渡しの方法:車上渡し・軒先渡し・設置完了渡しのいずれかを明記します。この記載がなければ、現場でドライバーが積み降ろし・設置まで行わされても、発注書に根拠がない状態になります。
  • 製造委託等代金(運賃・料金):金額または算定方法を記載します。「例年どおり」「お任せします」では記載義務を満たしません。
  • 附帯業務がある場合の内容と対価:棚入れ・ラベル貼り・検品・荷待ち時間補償がある場合は、各作業の内容と単価または金額を運賃とは別に書きます。
  • 支払方法・支払期日:「月末締め翌月末払い」では、引渡し日によって60日を超える可能性があります。引渡し完了日から60日以内に収まるか確認が必要です。
  • 委託事業者・中小受託事業者の名称・所在地:担当者名だけでなく、法人名・所在地を記載します。

(2)現場でよく起きる記載不備

「一式〇〇〇〇円」という記載は最も多い不備です。棚入れ・ラベル貼り・荷待ち時間が運賃に含まれているのか別途発生するのかが判断できません。「当然含まれている」と荷主側が思い込み、「別途請求できるはず」と運送会社側が解釈している状態が常態化します。公正取引委員会等の調査では、この「一式発注」が、附帯業務の範囲や対価が不明確であると確認される入口になる可能性があります。

継続取引であっても、発注のたびに、4条書面として必要な事項を、運送依頼書、個別発注書、発注システム、メール等により明示する必要があります。基本契約書を締結している場合でも、個別の運送内容、引渡場所、引渡日時、運賃・料金、支払期日などが別途明示されていなければ、実務上は不十分です。

よくあるNG例❌
  • 「いつも通りの条件で」という口頭指示のみ → 4条書面なし、違反
  • 「運送業務一式 〇〇円」という記載 → 附帯業務の内容・対価が不明確、記載不備
  • 既存取引で書面を一度も交わしていない → 継続取引でも書面義務は毎回発生

(3)貨物自動車運送事業法の書面義務との関係

2025年4月施行の改正貨物自動車運送事業法により、荷主とトラック事業者が運送契約を締結する際に、相互の書面交付が義務化されました。取適法の4条書面と、貨物自動車運送事業法の書面交付義務は、別の法律に基づく別の書面です。どちらか一方を満たせば他方も満たすわけではありません。記載事項・交付のタイミング・電磁的方法による承諾の取り方がそれぞれ異なります。

実務上は、両法の記載事項を統合した発注書フォーマットを整えることで、管理の手間を減らすことができます。ただし、購買・調達部門が発注の流れの中で書面交付を行う仕組みに組み込む必要があります。書面のフォーマットを整えても、現場担当者が口頭で追加指示を出す慣行が続いていれば、法令対応としては不完全です。

(4)運送依頼書(4条書面)の記載項目チェックリスト

確認項目記載内容の例よくある不備
品目・数量・重量○○製品 △個、合計□kg「一式」のみの記載
届け先・引渡し日時○○株式会社△△倉庫、〇月〇日午前中「翌日中」などの曖昧な記載
引渡し方法車上渡し(積み降ろしは荷受側が行う)記載なし→現場任せ
運賃・料金〇〇円(燃料サーチャージ別途)「例年どおり」「お任せ」
附帯業務と対価棚入れ作業 〇〇円、荷待ち補償 〇〇円/時運賃に「一式」で包含
支払方法・支払期日銀行振込、引渡し完了日から30日以内翌々月末払いで60日超え
委託者・受託者名発注会社名・運送会社名担当者名のみ

(5)支払期日の設定(60日ルール)

運送サービスの提供を受けた日(引き渡し完了日)から60日以内に支払期日を設定することが義務です。月末締め翌々月末払いというサイクルは、引き渡しのタイミングによっては60日を超える場合があり、注意が必要です。

(6)書類の作成・保存(2年間)

発注書・受領書・変更記録などの関連書類を、運送完了後2年間保存する義務があります。公正取引委員会の調査が入った際に書類が存在しない場合、発注内容や支払条件を説明できず、法令対応上の問題になります。

(7)遅延利息の支払(年14.6%)

支払期日を過ぎた場合、年率14.6%の遅延利息を支払う義務があります。運送会社側から請求がなくても、支払遅延があれば遅延利息の問題が生じます。継続取引では、過去の支払状況も確認対象になる可能性があります。

9.禁止される行為(買いたたき・減額・協議に応じない一方的な代金決定など)

(1)協議なき一方的な価格決定

運送会社から協議を求められているにもかかわらず、協議に応じないまま一方的に代金を決めることは問題になります。「昨年と同じ条件で」という発注を繰り返すだけでは不十分で、協議を行い、検討した経緯を記録に残すことが必要です。

(2)不当な減額

いったん合意した運賃を後から一方的に引き下げることは禁止です。「量が減ったから単価も下げてほしい」「競合他社が安いから合わせてほしい」という形での一方的な減額要請はNGです。合意の形をとっていても、実態として断れない状況での合意は問題になる場合があります。

(3)買いたたき

合理的な根拠なく、市場価格・原価水準を著しく下回る運賃を設定することです。「うちのような大口顧客だから当然」という論理は通じません。価格の根拠を説明できる状態にしておく必要があります。

(4)荷待ち・無償附帯作業の強要

物流現場で特に問題になりやすい論点です。なお、荷待ちや無償附帯作業については、取適法上の禁止行為だけでなく、物流特殊指定や貨物自動車運送事業法上の荷主対応としても確認が必要です。

  • 発注書に記載のない荷待ち時間に補償しない
  • 棚入れ・ラベル貼り・検品などを「運送の範囲内」として無償で実施させる
  • 積み降ろし後の片付け・清掃を当然のこととして求める
  • 燃料費の上昇を無視した運賃のまま発注し続ける

(5)不当な利益提供要請など

協賛金・キャンペーン費用の一部負担・物品の提供など、運送委託とは無関係な利益の提供を求めることは禁止です。取引の性質によっては、受領拒否や返品に関する禁止事項が問題になる場合もあります。

10.貨物自動車運送事業法との関係(2025年4月施行)

令和7年4月1日施行の改正貨物自動車運送事業法により、真荷主とトラック事業者が運送契約を締結するときは、相互の書面交付が必要になりました。

重要:2つの書面義務は別物です

取適法(旧下請法)の4条書面と貨物自動車運送事業法の書面交付義務は、根拠法・目的・記載要件がそれぞれ異なります。一方を満たせば他方も満たすというわけではありません。

実務的には、両法の要求事項を統合した発注書フォーマットを整えることで、管理コストを抑えることができます。電磁的方法(メール・クラウド共有など)による交付については、それぞれの法律で承諾の取得方法が異なる点にも注意が必要です。単なる書式変更ではなく、購買管理の流れの中に、物流委託の確認項目を組み込む必要があります。

11.公正取引委員会・国土交通省(トラック・物流Gメン)の立入調査で実際に見られるポイント

トラック・物流Gメンの集中監視月間

トラック・物流Gメンは毎年集中監視月間を設けて、情報収集、・立入調査を積極的に実施しています。その中で違反原因行為等の疑いが認められた荷主・元請運送事業者・倉庫会社等に働きかけ・要請を行っています。令和7年度は公正取引委員会と連携して合同パトロールが行われました。

実際に指摘が集中する事項は以下の4点です。

  • 口頭発注の常態化:担当者間の電話やLINEで完結し、発注書が存在しないケース。「長年の取引で信頼関係がある」だけでは、書面がない理由にはなりません。
  • 附帯業務の無償依頼:棚入れ・ラベル貼りが発注書に記載されておらず、現場の慣行として無償で行われているケース。担当者が「サービスとしてやってもらっている」と認識していても、法令上問題になる可能性があります。
  • 価格交渉履歴の不存在:燃料費上昇や最低賃金引き上げの局面で、価格改定要請に対して何らの協議も行っていないケース。協議の記録(日時・出席者・内容・結果)がなければ、協議を行ったことを説明しにくくなります。
  • 支払サイトの問題:月末締め翌々月末払いという慣行が継続しており、60日超えが常態化しているケース

12.この法律で企業が変えるべきこと

特定運送委託への対応を「書式変更のコンプライアンス案件」として処理しようとすると、発注書のフォーマット変更程度で終わります。しかしそれでは、次の調査・次の改正でまた同じ問題が繰り返されます。見直すべきは、発注のやり方そのものです。

発注の決め方の見直し

多くの荷主企業では運送委託の発注が「現場の慣行」に任されており、本社の調達・購買部門が関与していません。運送委託を購買管理の流れに組み込み、発注書の標準フォーマット・承認フロー・記録保管ルールを整備することが第一歩です。

附帯業務の棚卸し

全国の物流拠点・取引先ごとに「ドライバーが実際に行っている作業」を洗い出す必要があります。本社が認識していないレベルで附帯業務が発生しているケースが、複数拠点を持つ企業では珍しくありません。現場に任せたままでは実態把握すらできません。

価格協議のルール化

一度決めた運賃を「原則として変えない」「値上げは認めない」という文化を持つ企業は多い。しかし取適法(旧下請法)では、燃料費や人件費などの変動があるにもかかわらず、協議に応じないまま一方的に価格を決めることは問題になります。価格協議を行った経緯は、記録として残しておく必要があります。

物流コストの見直し

附帯業務の範囲と対価を整理し、運賃を見直すと、物流コストが表面上増える場合があります。しかしこれは「増加」ではなく「コストを見える化すること」です。これまで無償で行われていた作業の対価が明示されるだけです。この機会に物流コストをサービス内容ごとに分解し、適正な発注ルールを見直すことが取引先や運送会社に説明できる物流管理につながります。

13.このまま放置するとどうなるか

行政から確認を受けた場合、問題の内容や改善状況に応じて、指導、勧告、社名公表などにつながる可能性があります。

①是正指導・注意 → ②改善が見られない場合は勧告・社名公表 → ③悪質性が高い場合や改善が進まない場合には、より重い対応につながる可能性があります。

注意すべきは遡及適用の問題です。違反状態が継続していた期間の遅延利息(年14.6%)は、過去分について一括請求される可能性があります。発注書が存在しない状態で2年間取引が続いていた場合、その期間全体が対象になりえます。

重要

「昔からこのやり方だった」という事情だけでは、説明としては弱くなります。現在の発注実態を早期に確認し、問題があれば自主的に是正することが、リスクを抑えるために必要な対応です。

14.よくある質問(FAQ)

Q:特定運送委託とは簡単にいうと何ですか?

荷主が自社の取引相手へ物品を届けるために外部の運送会社へ委託する運送のことです。販売・製造・修理・情報成果物作成の4類型があります。「運送会社の問題」ではなく、荷主の発注内容、支払条件、価格協議なども確認される制度です。

Q:自社のトラックで配送している場合は対象ですか?

外部の運送事業者への委託ではないため、自社トラック・自社ドライバーによる配送は特定運送委託の対象外です。ただし、一部を外部委託しているルートがあれば、その部分は対象になります。

Q:グループ会社(物流子会社)への委託はどう扱われますか?

物流子会社への委託であっても、直ちに対象外とはいえません。委託内容、資本金・従業員基準、物流子会社の役割、再委託の有無によって、取適法上の確認が必要になる場合があります。

Q:宅配便(ヤマト・佐川など)を利用している場合は?

宅配便会社も運送事業者に当たり得ます。取引相手への引渡しに必要な運送であり、資本金・従業員基準を満たす場合には、対象となる可能性があります。

Q:附帯業務の有償化を求めたら取引を切られそうで怖い。どうすればよいですか?

荷主側から一方的に「来月から有償にします」と通告するのではなく、作業範囲と対価を整理する必要があることを共有し、移行期間を設けて協議することが現実的です。

Q:価格交渉の記録はどのように残せばよいですか?

協議の日時・出席者・提案内容・協議結果を記録した書面を作成し、メールで相手方に送付して確認を取る方法が有効です。「議事録を送ります」という一通のメールが、調査時の証拠として機能します。

15.まとめ|特定運送委託への対応で企業が問われること

  • 特定運送委託は、多くの荷主企業で確認が必要になる——「運送会社の問題」ではなく「荷主の発注行為を規制する法律」
  • 現場の慣行として続いてきた口頭発注、無償附帯業務、支払遅延は、行政から確認を受けた際に問題になりやすい
  • 支払遅延がある場合、遅延利息の支払いが問題になる可能性がある
  • 対応の起点は「自社の発注実態の棚卸し」——発注書の有無・附帯業務の有無・支払サイトの確認から始める

16.取適法(旧下請法)・物流特殊指定の対応状況を整理したい企業へ

制度改正により、物流取引における荷主企業が確認すべき範囲は広がっています。契約書の整備だけでなく、発注条件や現場の運用実態まで含めて整理しておくことが重要です。

行政書士法人運輸交通法務センターでは、当法人が独自に作成した50項目のチェックリストに基づき、現在の制度対応上、確認すべき点を整理する診断を実施しています。発注条件、契約内容、運用実態を一連の流れで確認し、制度改正後に説明しにくい部分や、優先して見直すべき点を整理します。

自社の対応状況を整理したい場合は、下記物流下請法リスク診断を参照してください。

診断後に、契約、現場運用、支払、社内管理まで継続的に整えたい場合は、物流ガバナンス設計プロジェクトも確認してください。

17.監修者紹介・法人紹介

監修者:行政書士 楠本 浩一(くすもと こういち)
行政書士法人 運輸交通法務センター 代表社員/行政書士
著書『荷主と物流会社のための物流下請法と「法令違反」防止ガイド

行政書士 楠本浩一は、物流分野における取適法(旧下請法)の実務に取り組む物流法務の実務家です。著書荷主と物流会社のための物流下請法と「法令違反」防止ガイドを出版し、物流分野における法令対応と、荷主企業の実務に即した管理体制づくりに取り組んできました。

パナソニックの物流部門において物流法務を専任で担当。その後、物流子会社へ出向し、同社においても物流法務の責任者を務めました。荷主側と物流会社側の双方で法務責任を担い、契約実務、委託先管理、現場運用の確認までを含む実務を20年以上にわたり経験してきました。

主な実務領域

🟦物流発注契約の見直し 🟦委託先との関係整理 🟦元請・実運送会社との法的整理
🟦契約内容と現場実態が一致していない部分の確認・改善🟦取適法(旧下請法)および物流特殊指定対応


これまでに全国100か所以上の物流拠点に入り、倉庫・輸送・積込・待機・附帯作業の実態を確認。契約書の条文だけでは拾いきれない現場の実態を確認し、実務に即して改善する業務を積み重ねてきました。

物流トラブルの多くは運送会社側ではなく、
荷主側の発注条件や社内管理にも原因があります。制度は読むだけでなく、現場で動く形にしなければ意味がありません。この視点から、物流・運送業専門の行政書士として活動しています。

講師・掲載実績

 東海電子主催セミナー講師SMBCコンサルティング【NETPRESS】日本実業出版社【企業実務】物流ニッポン物流ウイークリープレジデント東洋経済等多数

行政書士法人 運輸交通法務センター

行政書士法人 運輸交通法務センターは、その名称の通り、運送・物流分野に特化した専門家集団です。

行政書士の独占業務である許認可手続にとどまらず、荷主企業向けの物流取引管理、契約・現場運用・支払の確認にも力を入れています。

専門領域
  • 荷主側の物流発注ルールの見直し ・契約内容と現場運用の確認
  • 待機時間・附帯作業を含めた物流実務の点検
  • 「物流下請法」を軸とした社内管理体制の整備

製造業・流通業・小売業といった荷主企業に対し、問題が起きてから対応するのではなく、契約、発注、現場運用、支払の流れを事前に確認し、説明できる状態に整える物流法務を重視しています。

関連記事

当法人が提供するサービス

1.物流下請法リスク診断

荷主企業の物流取引に潜む法務リスクを整理する「物流下請法リスク診断」。取適法(旧下請法)・物流特殊指定を踏まえ、発注構造・契約・現場運用を50項目チェックリストで診断します。製造業・流通業・小売業向け全国対応します。

2.物流ガバナンス設計プロジェクト

物流特殊指定・取適法(旧下請法)に対応し、発注構造から見直す実務支援。荷待ち・附帯作業・価格決定の問題を「現場対応」ではなく「設計」で解決します。制度改正後の是正勧告リスクに備えたい荷主企業向けのプロジェクトです。
物流ガバナンスを、1年間で企業内部に構築し、外部に依存しない、自走できる体制をつくります。

目次