本記事では、総合物流施策大綱2026のうち、特に荷主企業に関係する「商慣行の見直し」「CLO選任」「価格転嫁」「取引環境の適正化」に絞って解説します。
44件のパブコメを読み解いた前回の記事で、最後にこう書きました。「なぜ政府がここまで踏み込んでいるのか、その背景と意図を整理します」と。
1.前回の大綱が問えなかったこと
2021年度から2025年度を対象とした前回の大綱は、物流問題を一貫して「物流事業者の供給能力の問題」として扱っていました。
2.今回の変化:「物流問題」の定義が書き換えられた
今回の大綱で起きた変化は、主語の変化ではありません。物流問題の定義そのものが、「供給の問題」から「取引の問題」へと書き換えられたことです。
5つの政策柱のうち第2柱として、
「物流全体の最適化に向けた商慣行の見直しや荷主・消費者の行動変容、産業構造の転換」
が明示されています。
これまで物流は「運ぶ人の問題」として処理されてきました。しかし今回の大綱は、それを「決める側の問題」に引き戻しています。発注のやり方、納品条件の設計、リードタイムの設定——物流問題の根源は、荷主企業の意思決定にあると、政府が明文化したのです。
これは単なる政策の方向転換ではありません。物流問題の責任の所在を、制度として書き換えたということです。
3.三つの法律が「取引問題」として物流を捉え直している
この大綱の背景には、令和6年から令和7年にかけて相次いで成立・施行された三つの法律があります。三つの法律に共通しているのは何か。物流の問題を「運ぶ側の能力」ではなく、「発注・契約・取引のあり方」の問題として捉え直している点です。
これまで物流法制の主な対象は運送事業者でした。しかし三つの法律はいずれも、荷主企業の「取引行為」そのものを規制の対象としています。
「運送会社へお願いする」段階は終わり、「制度による強制」の段階に入りました。
4.「努力義務」という言葉の重さ
大綱を読んでいると、「努力義務」という言葉が繰り返し出てきます。これを「努力すればいい程度の話」と受け取るのは危険です。
「努力義務」は出発点であり、その努力の内容と結果を国に報告する義務がセットになっています。
取り組んでいない場合、あるいは取り組みが不十分な場合、行政指導の対象となる可能性があります。
5.監視の目は確実に広がっています
トラック・物流Gメンによる是正指導も強化されています。現在360名規模で荷主等への是正指導が行われており、令和6年11月の改組以降は倉庫事業者からの情報収集も可能となっています。
これが意味することは何か。
物流の現場で何が起きているかを、行政が直接把握できる体制が整いつつあるということです。
荷主企業の取引実態に関する情報が、これまでよりも広いルートから行政に集まるようになっています。「自社の取引実態が見られていない」という前提は、もはや成立しません。
6.CLOに何が求められているのか
令和8年4月から義務付けられたCLOの選任について、大綱はその役割をこう説明しています。
「開発・調達・生産・販売等の関係部署間の連携体制の整備、取引先等や異業種・競合企業を含む社外事業者等との連携によるサプライチェーン全体の物流改善を推進する」
これは物流部門の管理者を一人置けば済む話ではありません。大綱が想定しているCLOは、社内の横断的な連携を主導し、取引先との関係も含めたサプライチェーン全体の物流改善を推進する経営幹部です。
7.価格転嫁は「荷主が払う側」の問題です
大綱の第2柱には「適正な運賃収受等に向けた価格転嫁の円滑化と取引環境の適正化の推進」という項目があります。これを「物流会社の話」と判断してしまうと誤った方向に進む可能性があります。
大綱は「荷主の立場が元請事業者と比較して圧倒的に強い取引構造」が問題の根本にあると明言しています。
貨物自動車運送事業法の改正によって「適正原価」を下回る運賃の収受が制限されることになり、3年後に向けて適正原価の設計が始まっています。これは運送事業者に対する規制のように見えて、実質的には荷主企業に対して「適正原価に基づく運賃を支払え」という要請です。
8.商慣行の見直しとは何を変えることなのか
大綱が求める商慣行の見直しの内容を具体的に見てみます。
いずれも「荷主企業が取引先に課している条件」です。これらが物流の非効率を生み出してきた商慣行として、政府に名指しされています。
短いリードタイムを要求する、厳しい納品条件を課す、欠品にペナルティを設ける——これらの慣行が積み重なって物流現場を圧迫してきたことが、もはや政策文書に記録されました。
9.荷主企業の責任が明確になりました
ここまで整理すると、結論は明確です。
物流の問題は、もはや現場の問題ではありません。
発注、契約、価格、リードタイム——すべて荷主企業の意思決定の問題です。物流は「現場の問題」ではなく、「決めた側の問題」として扱われる段階に入りました。
前回の記事で「行政が外から制度を整えても、企業の内部が変わらなければ物流は変わらない」と書きました。その「内部を変える」ことを、今度は法律と大綱が直接求めてきています。
制度は整いました。ここから先は、制度の問題ではありません。自社のやり方を変えるかどうか、それだけです。
10.では、具体的に何から手をつければいいのか
大綱を読んだ荷主企業の担当者が次に考えるのは、「では自社は何をすればいいのか」という問いです。
中長期計画を作る、CLOを選任する、商慣行を見直す——方向性はわかります。しかし実際に動こうとしたとき、多くの企業は壁にぶつかります。自社の現状がどういう状態にあるのかが、見えていないからです。
11.物流下請法への対応状況を整理したい企業へ

制度改正により、物流取引における荷主企業の責任範囲は大きく変化しています。契約書の整備だけでなく、発注条件や現場の運用実態まで含めて整理しておくことが重要です。
自社の対応状況を整理したい場合は、下記物流下請法リスク診断を参照してください。
診断だけではなく、根本的に解決したい方は、物流ガバナンス設計プロジェクトを参照してください。
12.監修者紹介・法人紹介
監修者:行政書士 楠本 浩一(くすもと こういち)![]() |
| 行政書士法人 運輸交通法務センター 代表社員/行政書士 著書『荷主と物流会社のための物流下請法と「法令違反」防止ガイド』 |
パナソニックの物流部門において物流法務を専任で担当。その後、物流子会社へ出向し、同社においても物流法務の責任者を務めました。荷主側と物流会社側の双方で法務責任を担い、契約設計、委託構造、運用統制までを含む実務を20年以上にわたり経験してきました。
主な実務領域
講師・掲載実績
行政書士法人 運輸交通法務センター
行政書士法人 運輸交通法務センターは、その名称の通り、運送・物流分野に特化した専門家集団です。
行政書士の独占業務である許認可手続にとどまらず、行政書士の「外側」にある非独占領域、すなわち荷主企業向けの物流ガバナンス構築に重点を置いています。
- 荷主側の物流発注設計 ・契約と現場運用の整合
- 待機時間・附帯作業を含めた実務構造の見直し
- 「物流下請法」を軸としたガバナンス設計
製造業・流通業・小売業といった荷主企業に対し、問題が起きてから対処する事後対応型ではなく、問題が起きない構造を先につくる事前設計型(予防型)の物流法務を提供している点が最大の特徴です。
各行政書士には専属の一般職員が付き、書類作成・情報整理・進行管理を分担。特定の担当者に依存せず継続的に案件を進められる体制を整えています。
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当法人が提供するサービス
荷主企業の物流取引に潜む法務リスクを整理する「物流下請法リスク診断」。取適法(旧下請法)・物流特殊指定を踏まえ、発注構造・契約・現場運用を50項目チェックリストで診断します。製造業・流通業・小売業向け全国対応します。
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物流ガバナンスを、1年間で企業内部に構築し、外部に依存しない、自走できる体制をつくります。


