
総合物流施策大綱2026−2030の中でも、荷主企業が特に確認すべきなのは、「商慣行の見直し」「荷主・消費者の行動変容」「価格転嫁」「取引環境の適正化」です。
これらの実務対応を進めるうえで、改正物流効率化法に基づくCLO(物流統括管理者)の役割も重要になります。
正式名称は「総合物流施策大綱(2026年度〜2030年度)」で、2026年3月31日に閣議決定されています。国土交通省は、2030年度までを物流革新の「集中改革期間」と位置づけ、5つの観点から施策を進めると説明しています。
1.前回の大綱では前面に出にくかったこと
2021年度から2025年度を対象とした前回の大綱は、物流事業者側の生産性向上や供給能力の確保が大きな柱になっていました。
2.今回の変化:物流問題を荷主側から見直している
今回の大綱で大きいのは、物流問題を運送会社側の供給力だけでなく、荷主側の発注条件や納品条件の問題として扱っている点です。
5つの観点の2つ目として、
「物流全体の最適化に向けた商慣行の見直しや荷主・消費者の行動変容、産業構造の転換」
が掲げられています。
これまで物流は「運ぶ人の問題」として処理されてきました。しかし今回の大綱は、それを「決める側の問題」に引き戻しています。発注のやり方、納品条件の決め方、リードタイムの設定。こうした荷主側の判断が物流現場に大きく影響していることを、今回の大綱は正面から扱っています。
これは単なるスローガンではありません。荷主側の発注条件や商慣行を、政策上の対象として明確に扱い始めたということです。
3.三つの法律が「取引問題」として物流を捉え直している
この大綱の背景には、2024年以降に進んだ物流効率化法、取適法(旧下請法)、貨物自動車運送事業法などの制度改正があります。これらに共通しているのは、物流の問題を運送会社側だけでなく、荷主企業側の発注、契約、取引条件の問題としても扱っている点です。
これまで物流法制の主な対象は運送事業者でした。これらの制度改正により、荷主企業の発注条件、価格協議、納品条件、現場運用も確認対象になりつつあります。
「運送会社に協力をお願いする」だけではなく、荷主側の取引条件や運用にも制度上の確認が入る段階に入りました。
4.「努力義務」という言葉の重さ
大綱を読んでいると、「努力義務」や「取組の促進」といった表現が出てきます。これを「できる範囲でやればよい」という程度に受け取るのは危険です。
これらは、大綱だけで完結する話ではありません。今後、物流効率化法、取適法、物流特殊指定、貨物自動車運送事業法などの個別制度と連動しながら、荷主企業の実務に影響していきます。
したがって、大綱に出てくる「努力義務」や「行動変容」という言葉は、単なるスローガンではありません。荷主企業が、これまでの発注条件、納品条件、価格協議の進め方を見直すべき方向を示したものです。
5.行政が確認できる情報は広がっています
トラック・物流Gメンによる是正指導も強化されています。令和6年11月には、トラックGメンが「トラック・物流Gメン」に改組され、倉庫業者からの情報収集も行う体制になりました。国土交通省は、体制を総勢360名規模に拡充すると公表しています。
これが意味することは何か。
物流の現場で何が起きているかについて、行政が情報を得るルートが広がっているということです。
荷主企業の取引実態に関する情報が、これまでよりも広いルートから行政に集まるようになっています。「自社の取引実態が外から見えない」と考えるのは危険です。
6.CLOに何が求められているのか
CLOとは、物流統括管理者のことです。これは総合物流施策大綱で新たに創設された役職ではなく、改正物流効率化法に基づき、一定規模以上の特定荷主等に選任が求められる法定の役職です。
総合物流施策大綱2026−2030では、この物流統括管理者の設置を前提に、その役割や能力向上について次のように整理しています。
開発・調達・生産・販売等の関係部署間の連携体制の整備、取引先等や異業種・競合企業を含む社外事業者等との連携によるサプライチェーン全体の物流改善を推進する
これは、物流部門の管理者を一人置けば済む話ではありません。大綱が想定している物流統括管理者は、物流部門内の管理者にとどまらず、社内の関係部署や取引先との連携を進められる立場の責任者です。
これらはすべて、物流部門だけでは解決できません。開発、調達、生産、販売などの関係部署が連携しなければ、現場にしわ寄せが出やすい問題です。
したがって、CLOの選任は、単に役職を置くことではありません。荷主企業が、発注条件、納品条件、取引先との調整を会社全体で見直すための責任者を置くという意味を持ちます。
7.価格転嫁は荷主側の対応が問われる問題です
大綱には「適正な運賃収受等に向けた価格転嫁の円滑化と取引環境の適正化の推進」という項目があります。これを「物流会社の話」と見てしまうと、荷主側の対応が抜け落ちます。
大綱では、荷主と物流事業者の取引関係において、荷主側の立場が強くなりやすい点が問題として扱われています。
今後、貨物自動車運送事業法の改正によって「適正原価」を下回る運賃の収受が制限されることになり、適正原価を踏まえた運賃・料金のあり方について、制度面での具体化が進むことになります。これは運送事業者に対する規制のように見えて、荷主企業にとっても、運送会社からの運賃改定や価格協議にどう向き合うかが、より重く問われることになります。
8.商慣行の見直しとは何を変えることなのか
大綱が求めている商慣行の見直しは、単に物流会社側の効率化を求めるものではありません。発着荷主間の契約、納品時期、発注方法、受取方法、返品基準、納品条件など、物流に負荷をかけている取引慣行そのものを見直すことが求められています。
つまり、大綱が示している商慣行の見直しとは、「運送会社にもっと効率化してもらう」という話ではありません。荷主企業自身が、これまで当然のように続けてきた納品条件や取引条件を見直すことです。
短いリードタイムを要求する。早朝納品を求める。欠品時のペナルティを厳しくする。外装のわずかな汚れや破損で返品する。こうした取引慣行は、物流現場に大きな負荷をかけます。
総合物流施策大綱2026−2030は、こうした取引慣行について、発着荷主や消費者の理解と実践を促し、物流に配慮した契約形態や注文・受取方法へ変えていく方向を示しています。
9.荷主企業にも説明が求められる段階に入った
ここまで見ると、荷主企業が確認すべきことははっきりしています。
物流の問題は、もはや現場の問題ではありません。
発注、契約、価格、リードタイムは、いずれも荷主企業の判断が大きく関わる領域です物流は「現場の問題」ではなく、「決めた側の問題」として扱われる段階に入りました。
行政が外から制度を整えても、企業の内部が変わらなければ物流は変わりません。「内部を変える」ことを、今度は法律と大綱が直接求めてきています。
制度は動き始めています。ここから先は、各社が自社の発注条件、納品条件、価格協議、現場運用をどこまで見直すかが問われます。
10.では、具体的に何から手をつければいいのか
大綱を読んだ荷主企業の担当者が次に考えるのは、「では自社は何をすればいいのか」という問いです。
中長期計画を作る、CLOを選任する、商慣行を見直す——方向性はわかります。しかし実際に動こうとしたとき、多くの企業は壁にぶつかります。自社の現状を正確に把握できていないからです。
11.取適法(旧下請法)・物流特殊指定の対応状況を整理したい企業へ

制度改正により、物流取引における荷主企業が確認すべき範囲は広がっています。契約書の整備だけでなく、発注条件や現場の運用実態まで含めて整理しておくことが重要です。
自社の対応状況を整理したい場合は、下記物流下請法リスク診断を参照してください。
診断後に、契約、現場運用、支払、社内管理まで継続的に整えたい場合は、物流ガバナンス設計プロジェクトも確認してください。
12.監修者紹介・法人紹介
監修者:行政書士 楠本 浩一(くすもと こういち)![]() |
| 行政書士法人 運輸交通法務センター 代表社員/行政書士 著書『荷主と物流会社のための物流下請法と「法令違反」防止ガイド』 |
パナソニックの物流部門において物流法務を専任で担当。その後、物流子会社へ出向し、同社においても物流法務の責任者を務めました。荷主側と物流会社側の双方で法務責任を担い、契約実務、委託先管理、現場運用の確認までを含む実務を20年以上にわたり経験してきました。
主な実務領域
講師・掲載実績

行政書士法人 運輸交通法務センター
行政書士法人 運輸交通法務センターは、その名称の通り、運送・物流分野に特化した専門家集団です。
行政書士の独占業務である許認可手続にとどまらず、荷主企業向けの物流取引管理、契約・現場運用・支払の確認にも力を入れています。
- 荷主側の物流発注ルールの見直し ・契約内容と現場運用の確認
- 待機時間・附帯作業を含めた物流実務の点検
- 「物流下請法」を軸とした社内管理体制の整備
製造業・流通業・小売業といった荷主企業に対し、問題が起きてから対応するのではなく、契約、発注、現場運用、支払の流れを事前に確認し、説明できる状態に整える物流法務を重視しています。
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