2026年1月施行の改正下請法、いわゆる物流下請法(物流取適法)によって、荷主企業にとっては、これまで以上に厳格なコンプライアンス体制を行わないとならないことになります。物流業務における委託の書面発行、コスト転嫁の受け入れ、運賃交渉のあり方、追加作業や附帯作業を行う場合は、それに対する費用の負担など、いずれも従来の慣行で行われてきたものですが、今後は法令違反として明確に指摘され、行政処分や社名公表が行われることになります。
今回の記事では、実際に行政が指摘してきた典型的なパターンや処分のフロー、さらにどのような事例があるかを紹介して、荷主企業における3つの重大リスクを整理していきます。物流下請法(物流取適法)の対応は気づいたときには、手遅れになるタイプのリスクです。絶対に放置してはいけません。
1.物流下請法(物流取適法)で指摘される典型的なパターン

荷主企業が最も誤解しがちなのは、下請法は製造分野が対象で物流は対象外だと言う認識です。今まではそれでよかったのですが、2026年1月以降は物流委託が特定運送委託として下請法に追加されています。荷主の運送委託は多くの場合、下請法の規制対象となりますので、行政指導で最も多く指摘されることになるでしょう。指摘される内容については、既に下請法が適用されている過去の元請運送事業者から下請運送事業者への委託内容の不備等から見て、このような内容が指摘されると考えられます。
①契約書の不備・委託内容の不明確化
運送委託に関しては、貨物自動車運送事業法で書面発注というのが義務付けられています。荷主企業から運送事業者への発注は書面での対応が必須なのですが、契約書が結んでるから大丈夫と思っている荷主企業が多く見られます。契約書には基本的な権利・義務のみしか書かれていません。物流委託には、これ以外にも運賃・料金、附帯作業の範囲と料金、追加作業発生時の費用負担、役務提供の範囲等を契約書の中に盛り込むか契約書以外の覚書等でこれらの内容を盛り込んでおく必要があります。
この部分を曖昧なままで運用してしまっていると、トラック・物流Gメン公正取引委員会による立入検査が行われたときに優越的地位を濫用している、コスト転嫁を拒否し続けている、不当な運賃の据え置きを行っている、と捉えられて何らかの処分を受ける可能性があります。
荷主様としては悪意なく行っていた今までの商慣行かもしれませんが、公正取引委員会から見ると明確な違反行為になる言われることが少なくありません。
②運賃の不当な据え置き、コスト転嫁の拒否
物流下請法(物流取適法)で最も重視されるテーマが適正な運賃料金の支払いについてです。下請法の11の禁止行為(物流分野は8つの禁止行為)の中に協議に応じない一方的な代金決定の禁止というのが新たに付け加えられています。これは、長時間の荷待ちが状態化してるのにその料金を取り決めしておらずこれらの対価を支払っていない。燃料費高騰理由に物流会社から値上げの交渉をしてきたが、合理的な根拠も示さずに値上げを拒否した、あるいは附帯作業を無料でやれと要求し続けていた、繁忙期と閑散期の業務量変動を取引の開始時に説明せずに、運賃料金を決めそのままズルズルと現在に至っている。
これらの荷主のなにげない行為が公正取引委員会の立入検査で見られるポイントとなります。ドライバーの処遇改善や物流現場の働きやすい職場環境への改善は国が重点的に進めているテーマです。荷主のこれらの何気ない行為は一段と厳しく行政サイドから見られています。
③口頭で依頼している・記録が書面で全く残っていない
- トラック1台追加お願いします。
- 30分早くトラックをつけてください
- 在庫が溢れそうなので、数量を急に追加して運んでください
こういった口頭での依頼が現場では当たり前のように起こっています。しかし、物流下請法(物流取適法)では、発注条件の変更依頼は書面または電磁的記録で残さないといけないルールです。発注側の荷主企業が直前になって気まぐれな変更が物流会社にとって大きなコスト負担要因になっていることが問題視されています。
2.公正取引委員会による処分の流れ

物流下請け法(物流取引適法)に関する行政処分は、従来の国土交通省(トラック、物流G面)が行う働きかけや要請とは、プロセスがかなり厳格に厳格化されています
①立入調査・ヒアリング
まず、公正取引委員会の実施する書面調査の内容、物流会社からの情報提供、下請かけこみ寺(正式名所は取引かけこみ寺に変更)への相談内容等を総合的に考慮して問題のありそうな荷主企業に対して、①ヒアリング、②書類提出要求、③訪問による確認が行なわれます。ここで求められるのは次のような資料です。
| ①契約書・覚書 |
| ②日々の発注書面(1回限りのスポット発注を含む) |
| ③運賃交渉の履歴 |
| ④運送以外に委託している附帯産業の内容がわかる資料及び料金 |
| ⑤請求書と支払状況がわかる書面 |
| ⑥変更、キャンセルがあった場合の指示書面 |
これらの書面が揃えられなかったり、曖昧な回答をしたりすると公正取引委員会は、組織的なコンプライアンス欠如と判断します。
②是正指導・勧告
立入調査の結果、違反が認められると是正指導・勧告が行われます。指導や勧告を受けると、荷主企業は以下のような義務を負います。
| 違反内容の是正 |
| 今後の再発防止計画の策定・提出 |
| 物流会社へ追加支払い等を遡及して精算 |
荷主側の言い分が通らないケースが多く、交渉の余地はほとんどありません。
③社名公表
是正勧告を受け、改善が不十分と判断された場合は社名公表へ進みます。
公表された企業は、
| 勧告が行われたら | 会社への影響 |
|---|---|
| 新聞・経済誌・ネットニュースで取り上げられる | 子会社が勧告をうけた場合でも親会社の名前までニュースで取り上げられることもある |
| 株主・取引先が不信感を持つ | ホームページで経緯説明と謝罪 |
| 取引停止や見直しが発生する | 売上減、株価下落 |
| 物流現場が混乱する | 勧告事案の火消し対応に追われて通常業務ができなくなる |
など、極めて大きな経営ダメージを受けます。
行政は抑止力として公表制度を重視しており、現在の年間10数件から今後はさらに件数が増えると予測されます。
3.想定される勧告の内容

2026年1月以降の特定運送委託で勧告される内容については、次の項目が想定されます。
| 違反行為 | 具体的内容 |
|---|---|
| 不当な給付内容の変更・やり直し(長時間の荷待ち)※貨物自動車運送事業法で勧告事例あり | ・2時間を超える荷待ちの常態化・複数の物流拠点での荷待ち発生・過去に働きかけ・要請・指導をうけたにもかかわず改善できていない |
| 協議に応じない一方的な代金決定の禁止 | ・価格転嫁の一方的な拒否・会社として最初から値上げを認めない交渉をしている ・忙しさを理由にわざとアポを拒否 |
| 代金の減額※元請運送事業者から下請運送事業者への下請法勧告事例多数あり | ・両社で合意があっても減額は違法・協賛金、協力金、歩引き等名目を問わず減額は違法 |
| 不当な経済上の利益の提供要請 | ・契約にない無償の附帯作業 (積み込み、積み降ろし、ラベル貼り、棚入れ等) |
現場の判断で過去からの商慣習の延長上で行われていないか、経営層がこのような勧告リスクを把握しているのかを可視化していかなければなりません。経営層がこのような状況を把握できていないのが最大の落とし穴です。
4.物流下請法(物流取適法)違反による3つの実害

①社内の是正コストが急増する
公正取引委員会の立入検査が入り指導や勧告を受けると社内の業務負担は一気に増加します。
| 契約書他発注書面等の書類を整備 |
| 委託範囲の明確化、書面作成 |
| 発注ルール、運賃体系・運賃改定ルールの再設計 |
| 公正取引委員会への提出書類作成 |
| 運送会社へ遡及追加精算金の支払い |
| 社内教育実施 |
などを勧告から1か月以内に行わないといけないため、物流現場の通常業務機能がマヒしてしまい、責任者・担当者の時間外労働が一気に増えます。
また、今回、違反の対象とならなかった別の拠点や部門でも同じような対応が求められ、場合によっては情報システムの改修が必要になります。これらを合わせると比較的規模の大きい会社であれば人件費の追加増分、他の業務が後回しになってしまうことによる間接的な損害を含めて数千万円単位に上ることもあります。
②罰則・勧告・社名公表による直接的ダメージ
行政処分や社名公表によってTVのニュースや新聞等のメディアでその事件が報道されます。役員を含めた社内で初動対応を整理し、ホームページ等で情報説明と謝罪を公表しなければなりません。
株価下落、売上減少、SNSによる炎上という大きな信用毀損になってしまいます。
これらが一度発生してしまうと数年単位の影響があります。
③株主・取引先・委託物流会社(運送会社)からの信頼低下
勧告や社名公表を受けるとその後の取引先との信用回復のために莫大な工数をとられえます。
運送委託で下請法勧告を受けた場合に製造委託にも飛び火する可能性もあるため、調達や製造、情報成果物の分野でも一斉点検が必要になってきます。
特に物流はサプライチェーンの中心に位置しているため、一部門の不備によって会社全体(子会社が勧告を受けた場合は親会社を含むグループ会社全体)の内部統制に派生してきます。
最も深刻なのは、物流会社との関係悪化です。荷主の一方的な要求で苦しんできたという不満が一気に噴出し、協力関係が崩れることも珍しくありません。その結果、現在の取引関係是正のため、一斉に値上げを認めざるを得なくなり、経営コストが大幅に増加してしまいます。
5.今から体制を整えないと間に合わない

物流下請法(物流取適法)は2026年1月から施行です。公正取引員会も改正下請法(改正取適法)[※物流分野だけではなく製造委託等下請法全般]の特設サイトをつくって事前指導・啓発活動を行っています。
少なくも施行後は次のようなことは当然対応できているものとして立入検査、書面調査、ヒアリングが行われます。
- 契約書・覚書がしっかりと締結されている。自動更新で最新の法改正や追加法令にも対応できている。
- 発注書面を発行し、保存している。
日々の発注物量、トラック台数、スポット発注の書面を発行し、下請法(取適法)に定める2年間保存している。 - コスト転嫁受入れの合理的対応
協議に応じない一方的な価格決定の禁止が新しく禁止行為に追加されたことにより、物流会社との協議を適切な実施、交渉記録を保存する。 - 物流ガバナンス体制の構築
物流責任者・担当者(他業務との兼務責任者・担当者を含む)に対して定期的な研修会の開催。責任者・担当者の法令を理解し実務に落とし込むルールをつくる
これら多くのことをしていかなければなりまあせん。これをすべて行うのは、1〜2か月で整うものではありません。むしろ、社内の部署横断の見直しが必要となり、半年以上の準備期間を要するのが通常です。
気づいた時にはもう立入検査が入っていたというケースも想定され、対応の遅れが経営リスクになってしまいます。
荷主企業はいまから動かなければ間に合いません。
物流下請法(物流取適法)の専門家とともに、契約書・運賃交渉・記録管理・社内体制の総点検を進めていくことが、2026年に向けた最も重要な経営課題となります。
御社の実務に即した具体的な物流下請法適正化プロジェクトについては、当法人が随時ご相談を承っております。
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