- なぜ「商慣行の見直し」が政策の独立した柱になったのか
- 荷主の行動変容として具体的に何が求められているのか
- 消費者・産業構造の転換とは何を指すのか
- 2021-2025年版大綱と何が変わったのか
- 荷主企業にどのような影響があるのか
はじめに
2026年3月31日に閣議決定された総合物流施策大綱2026−2030は、今後5年間の物流政策の方向性を示す政府の基本方針です。今回の大綱は、2030年度までを物流革新の「集中改革期間」と位置づけ、5つの柱で施策を進める内容になっています。
1.なぜ「商慣行」が政策の柱になったのか
前回の2021−2025年版大綱でも、荷主の協力や商慣行の見直しに関する記載はありました。ただし、今回の大綱では、その位置づけが一段変わっています。
これまで物流政策では、物流DX、自動化、標準化、共同輸配送、モーダルシフトなど、物流事業者側の生産性向上に重点が置かれてきました。もちろん、これらは今後も必要です。
しかし実際には、荷待ち時間の長時間化、納品時間の集中、小口多頻度配送、附帯作業の無償化といった問題は、物流会社側の努力だけでは大きく改善しませんでした。
物流会社がいくら効率化を進めても、発注条件や納品条件そのものが変わらなければ、物流現場の負荷は減らないからです。
背景には、2024年問題以降も続くドライバー不足と、2030年に向けた輸送力不足があります。今後は「物流を増やして対応する」という発想だけでは持ちません。物流負荷そのものを減らす方向へ、政策の軸が移っています。
2.「荷主の行動変容」とは何を指すのか
大綱で示されている荷主側の行動変容は、抽象的な努力目標ではありません。日々の発注、納品、取引条件に直結する内容です。
納品条件の見直し
特定の時間帯、特に午前中に納品が集中すると、運送会社の配車効率は下がり、荷待ち時間も長くなります。荷主側には、納品時間帯を分散させ、物流現場に過度な集中を生じさせない運用が求められます。
リードタイムの適正化
翌日配送や即日配送を当然の前提にした発注は、配送計画に無理を生みやすくなります。必要以上に短いリードタイムを見直し、出荷から納品までの時間に余裕を持たせることが、物流負荷を減らすうえで重要になります。
附帯作業の明確化
契約にない荷下ろし、棚入れ、仕分け、検品補助などをドライバーに求める慣行は、取引適正化の観点から問題になりやすい部分です。附帯作業を求めるのであれば、その範囲を明確にし、必要に応じて対価を決めておく必要があります。
価格転嫁への対応
燃料費、人件費、車両費、外注費が上がる中で、運送会社から運賃改定の申入れがあった場合、荷主側には協議に応じる姿勢が求められます。希望額どおりに応じるかどうかとは別に、協議をしない、記録を残さない、従来条件を一方的に固定する対応は、今後ますます説明が難しくなります。
荷待ち時間の管理と削減
荷待ちや荷役時間の短縮は、物流効率化法とも連動するテーマです。トラック予約受付システムの活用、受付方法の見直し、検品作業の効率化、入出荷時間の分散など、荷主側の現場運用そのものが問われます。
3.「消費者の行動変容」とは何を指すのか
今回の大綱では、荷主だけでなく、消費者の行動変容も明記されています。物流負荷は、企業間取引だけで生まれるものではありません。消費者の注文方法や受取方法も、物流現場に直接影響します。
また、翌日配送や即日配送への過度な依存を見直すことも、消費者側の行動変容に含まれます。急がない荷物まで最短配送を選ぶのではなく、受取日時に余裕を持たせる。まとめ買いや適切な発注ロットにより、配送回数を減らす。こうした行動が、物流負荷の削減につながります。
今回の大綱では、消費者も物流の受け手であると同時に、物流負荷を生む当事者であるという視点が明確になっています。
4.「産業構造の転換」とは何を指すのか
大綱における「産業構造の転換」は、物流を一部門のコスト管理だけで扱うのではなく、企業全体の経営判断として扱い直すことを意味します。
サプライチェーン全体での最適化
個社や個部門だけが都合よく動いても、物流全体は良くなりません。発荷主、着荷主、運送会社、倉庫会社、消費者を含めて、どこで負荷が発生しているのかを見直す必要があります。
取引関係の適正化
多重下請や、末端の実運送事業者への負担集中は、物流現場の持続性を損ないます。誰がどの条件で運んでいるのか、運賃や附帯作業の負担がどこに寄っているのかを見えるようにすることが求められます。
企業内の物流管理体制の見直し
物流効率化法と連動し、一定規模以上の荷主企業では、CLO(物流統括管理者)の選任や、中長期計画の作成・定期報告が求められます。これは、物流を物流部門だけの現場業務として扱うのではなく、経営レベルで管理する方向へ制度が動いていることを示しています。
物流は、もはや「運ぶ費用」の問題だけではありません。生産計画、販売計画、購買条件、納品条件、在庫管理、取引先との契約条件まで含めた、企業全体の経営課題になっています。
5.2021−2025年版との違い
前回の総合物流施策大綱2021−2025でも、荷主の協力や商慣行の見直しへの言及はありました。ただし前回は、物流事業者の生産性向上や物流DX、標準化、自動化などの文脈の中で語られる面が強かったといえます。
荷主側の発注方法、納品条件、附帯作業、価格協議、消費者の受取行動まで含めて見直さなければ、2030年の物流は持たないという認識が、今回の大綱ではより強く出ています。
6.まとめ
総合物流施策大綱2026−2030で、「商慣行の見直しと荷主・消費者の行動変容」が独立した柱として位置づけられた背景には、物流問題の原因を発注・取引条件の側から見直すという政策の転換があります。
これらは、単なる努力目標にとどまりません。物流効率化法、取適法、トラック適正化2法などと連動しながら、今後の荷主企業の実務に入り込んできます。
今後、荷主企業には「物流会社に任せているから大丈夫」ではなく、自社の発注条件、納品条件、支払条件、附帯作業、荷待ち時間を説明できる状態にしておくことが求められます。
自社の物流取引の現状を整理したい企業は、当法人の物流下請法リスク診断をご確認ください。
7.取適法(旧下請法)・物流特殊指定の対応状況を整理したい企業へ

制度改正により、物流取引における荷主企業が確認すべき範囲は広がっています。契約書の整備だけでなく、発注条件や現場の運用実態まで含めて整理しておくことが重要です。
自社の対応状況を整理したい場合は、下記物流下請法リスク診断を参照してください。
診断後に、契約、現場運用、支払、社内管理まで継続的に整えたい場合は、物流ガバナンス設計プロジェクトも確認してください。
8.監修者紹介・法人紹介
監修者:行政書士 楠本 浩一(くすもと こういち)![]() |
| 行政書士法人 運輸交通法務センター 代表社員/行政書士 著書『荷主と物流会社のための物流下請法と「法令違反」防止ガイド』 |
パナソニックの物流部門において物流法務を専任で担当。その後、物流子会社へ出向し、同社においても物流法務の責任者を務めました。荷主側と物流会社側の双方で法務責任を担い、契約実務、委託先管理、現場運用の確認までを含む実務を20年以上にわたり経験してきました。
主な実務領域
講師・掲載実績
行政書士法人 運輸交通法務センター
行政書士法人 運輸交通法務センターは、その名称の通り、運送・物流分野に特化した専門家集団です。
行政書士の独占業務である許認可手続にとどまらず、荷主企業向けの物流取引管理、契約・現場運用・支払の確認にも力を入れています。
- 荷主側の物流発注ルールの見直し ・契約内容と現場運用の確認
- 待機時間・附帯作業を含めた物流実務の点検
- 「物流下請法」を軸とした社内管理体制の整備
製造業・流通業・小売業といった荷主企業に対し、問題が起きてから対応するのではなく、契約、発注、現場運用、支払の流れを事前に確認し、説明できる状態に整える物流法務を重視しています。
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