貨物運送業許可更新制と適正原価の導入で、荷主企業の物流委託は、価格だけでは判断できない取引になります。運送事業者だけの話ではありません。
1.荷待ち・荷役の対価を払わない荷主が、社名公表の対象になります

荷待ち、荷役、附帯作業の対価を支払わないまま物流委託を続けた結果、荷主自身が是正指導や勧告・社名公表の対象となる可能性があります。さらに、そのような取引を続けた結果、委託先の運送事業者が許可を更新できなくなれば、荷主の貨物を運ぶトラックそのものを失うおそれがあります。
これは遠い将来の話ではありません。2025年6月に公布された改正貨物自動車運送事業法により、貨物運送業許可更新制と適正原価の導入が決まりました。遅くとも2028年6月までに施行されます。この二つは運送事業者を縛るためだけの改正ではなく、発注する荷主の取引そのものを問うものです。
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2.貨物運送業許可更新制とは

一般貨物自動車運送事業の許可は、これまで一度取得すれば継続して事業を行えるものでした。これが5年ごとの更新に変わります。この更新は改正法で確定した内容です。
許可更新では、法令を遵守した事業運営が行われているかが確認されます。適正原価を継続して下回る運賃・料金で事業を続けている運送事業者は、許可を更新できなくなります。
施行は遅くとも2028年6月までです。既存の運送事業者が実際に更新申請を求められるのは、経過措置を経た2030年以降になります。時間の猶予はありますが、それは荷主が今の物流委託を見直すための時間です。
3.適正原価と「料金原価」が荷主に問うもの

これまで国は、運賃交渉の参考として標準的運賃を示してきました。これは廃止され、適正原価へ移行します。
適正原価は、事業に実際にかかる費用に適正な利潤を加えたものを基礎として、国が定めます。相場の目安にすぎなかった標準的運賃と異なり、適正原価を継続して下回る運賃・料金での取引は、法律上問題となります。
荷主が特に理解すべきなのは、適正原価が運賃だけの話ではないことです。2026年7月17日の第1回有識者検討会では、荷待ち、荷役(積込み・取卸し)、附帯作業などの対価を「料金原価」として、運賃原価とは別の独立した要素として扱う考え方が示されました。かつて運賃だけを見て「安いか高いか」を判断してきた荷主にとって、これは委託の前提が変わることを意味します。
従来、多くの取引では、荷待ちや荷役の対価が運賃に含まれたまま処理され、「運賃込み」として整理されてきました。しかし適正原価の下では、運賃部分だけでなく、料金部分を適切に支払っているかが問われる場面が増えます。荷主にとっては、これまで一本の運賃で発注していた取引が、運送そのものの対価と、荷待ちや荷役の対価とに分かれて示され、それぞれを支払っているかを問われる取引に変わります。「運賃は相場並みに払っている」という説明だけでは足りず、荷役や附帯作業を無償で負わせていないかまで説明を求められます。
荷待ちや荷役の対価を支払っていない状態は、「料金部分が適切に支払われていない物流委託」と評価される可能性があります。これは新しい考え方ではありません。国土交通省は2017年の標準貨物自動車運送約款改正で運賃と料金を区分し、荷待ちには待機時間料を、積込み・取卸しには積込料・取卸料を設けました。2025年4月には運送契約の書面交付を義務付け、荷待ちや荷役の対価を契約書面に記載することを求めています。適正原価は、2017年から一貫した流れの延長線上にあります。
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4.違反原因行為から社名公表、そして委託先の消失まで
荷主が適正原価を継続して下回る運賃・料金で運送を委託した場合、あるいはそのような取引を続けざるを得ない状況を生じさせた場合、その行為は法律上の違反原因行為と評価される可能性があります。長時間の荷待ち、無償での荷役、契約にない附帯作業の押し付け、運賃・料金の不当な据え置きは、いずれもこの対象になり得ます。これらは従来「現場の運用」として処理されてきたものですが、今後は発注者である荷主の責任として評価される場面が増えます。
違反原因行為が疑われると、まずトラック・物流Gメンによる働きかけが行われます。改善が見られなければ要請に進み、それでも改善されない場合には勧告が行われ、荷主の社名が公表されます。トラック・物流Gメンは既に荷主・元請への調査と是正を進めており、これは施行を待って始まる話ではありません。社名が公表されれば、取引先や金融機関、採用市場などから法令遵守体制について厳しい目が向けられることになります。
ここで押さえておくべきは、荷主と運送会社では法的な扱いが異なることです。適正原価を継続して下回る運賃・料金で委託しても、荷主が直ちに法令違反となって行政処分を受けるわけではありません。荷主の行為は違反原因行為と位置付けられ、トラック・物流Gメンによる働きかけ、要請、勧告・公表の対象になります。
これに対し、運送事業者は適正原価を継続して下回る運賃・料金で事業を続けると、法令違反として監査や行政処分の対象となり、5年ごとの許可を更新できなくなります。罰則と許可更新に直接結びつくのは、荷主ではなく運送事業者の側です。
しかし、荷主にとって最も大きなリスクは、行政処分そのものではありません。不適切な物流委託を続けた結果、委託先の運送事業者が許可を更新できず、安定した輸送体制を失うことです。
5.荷主が今から確認しておくこと

すぐにすべての物流委託を見直す必要はありません。まず、自社の物流委託が今どうなっているかを確認することです。
運賃と料金を区分して契約しているか。荷待ち時間を把握しているか。荷役や附帯作業を、誰が、どのような条件で負担しているか。運送委託契約書や発注書の内容が、実際の運用と一致しているか。特に、口頭やメールだけで発注が続いている取引、何年も運賃を据え置いたままの取引、現場の判断で運送事業者に無償の作業を頼んでいる取引は、注意して見ておくべきです。これらは、適正原価の告示を待つまでもなく、2025年4月に始まった運送契約の書面交付義務のもとで、現在すでに整えておくべき事項です。
運賃と料金を区分し、荷待ちや荷役の対価を適切に取り決めて支払う。この当たり前の取引を積み重ねることが、適正原価と貨物運送業許可更新制への最も確実な備えになります。
まとめ

貨物運送業許可更新制は運送事業者を対象とした改正です。しかし適正原価は、荷主の物流委託そのものに影響します。価格だけで物流委託を判断する時代は終わります。運送事業者が法令を遵守し、安全で安定した輸送を継続できる取引かどうか。これからは、この視点で物流委託を見直すことが求められます。

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