2025年10月3日、国土交通省は「貨物自動車運送事業法附則第1条の2に基づく荷主への是正指導指針」の制定案に関する意見募集結果を公表しました。
今回の意見募集では20件の意見が提出され、その中に、当法人代表の楠本浩一が提出した3件の意見が掲載されています。
提出時の名義は、当時の事務所名である「行政書士楠本浩一事務所」です。着荷主、委託倉庫、作業会社など、運送契約の当事者ではない者が納品現場でドライバーへ指示している問題について、国土交通省から考え方が示されました。
今回の回答で最も重要なのは、運送契約の当事者ではないことだけを理由に、当然に是正指導の対象外になるとはいえないことです。
着荷主、倉庫の管理者、作業会社なども、貨物自動車運送事業法上の荷主に該当する場合には、取引の形態に応じて是正指導の対象となり得ます。
荷主への是正指導指針は、令和7年10月1日付けで定められています。
私が提出した3件の意見

着荷主、着荷主が委託する倉庫の管理者、その倉庫で作業を担う会社などが、運送契約の外側にいながら、ドライバーへ待機、荷降ろし、仕分け、棚入れなどを直接求めている実情を指摘しました。
是正指導の対象を契約上の荷主だけに限定せず、実際の納品現場で指示や拘束を行っている者も、法上の荷主に該当する場合には対象となることを明らかにするよう求めました。
指針案では、「倉庫業者」が倉庫業法第3条の登録を受けた者とされていました。
しかし、荷主が自社で使用する倉庫や賃借倉庫では、倉庫業法の登録を受けていない管理会社や作業会社が現場を動かしている例が少なくありません。登録の有無だけで対象を分けず、実際に倉庫を管理し、荷役や仕分けを担う者も含めるよう求めました。
荷待ち、契約にない附帯業務、運賃・料金の据置きなどは、国土交通省の是正指導だけでなく、取適法上の問題にもつながることがあります。
トラック・物流Gメンが把握した情報を公正取引委員会へ共有し、国土交通省の是正指導と取適法への対応を連動させることを求めました。
この記事を書いた人
行政書士 楠本浩一(行政書士法人運輸交通法務センター 代表)
物流業界で30年以上、うちパナソニックの物流部門・物流子会社に20年在籍し、物流法務を担当。
著書:荷主と物流会社のための物流下請法と「法令違反」防止ガイド
1.指針本文の大幅な修正には至りませんでした
結論からいえば、今回のパブリックコメントによって、私が求めた文言がそのまま指針本文へ追加されたわけではありません。
「着荷主、倉庫の管理者、作業会社等も対象に含まれることがある」という文言も、倉庫業法の登録の有無にかかわらず倉庫を管理する者を含めるという補足も、指針本文には追加されていません。
3件の意見が意見募集結果に掲載されたことと、求めた内容がそのまま指針本文へ反映されたことは別です。
一方で、3件の問題提起に対して国土交通省の考え方が示されました。特に、運送契約の当事者ではない者も、取引の形態と法上の立場によって是正指導の対象となり得ることが確認された点には、実務上の意味があります。
2.意見①|「契約外プレイヤー」も対象となり得ます

「契約外プレイヤー」に関する意見に対して、国土交通省は、是正指導の対象となる荷主は貨物自動車運送事業法第2条第8項及び同法第64条に該当する者であるとしたうえで、着荷主、倉庫の管理者、作業会社等も、取引の形態に応じて対象となり得るとの考え方を示しました。
指針上の荷主は、運送契約を締結した者だけではありません。貨物を受け取る者、貨物を引き渡す者、利用運送事業者を通じて運送を委託した者なども含まれます。
| 現場での立場 | 是正指導との関係 |
|---|---|
| 運送を委託する発荷主・元請 | 運送契約を締結して貨物の運送を委託する者として、是正指導の対象となり得ます。 |
| 貨物を受け取る着荷主 | 運送会社と直接契約していない場合でも、法上の荷主に該当することがあります。 |
| 倉庫の管理者・作業会社 | 名称や契約書上の立場だけでなく、貨物の受渡しや実際の取引の形態を踏まえ、法上の荷主に該当すれば対象となり得ます。 |
運送契約の当事者ではないという理由だけで、当然に是正指導の対象外になるとはいえません。
物流現場では、着荷主や作業会社の担当者が、発荷主を通さずにドライバーへ長時間の待機、手降ろし、仕分け、棚入れ、検品補助などを求めることがあります。
指針本文の修正には至りませんでしたが、「契約していない者は一律に対象外」という整理ではないことが、国土交通省の回答として示されました。
3.意見②|「倉庫業者」の定義の位置づけが確認されました

倉庫業者の定義に関する意見に対して、国土交通省は、指針で定義している「倉庫業者」は、是正指導の対象となる荷主としての定義ではなく、主に情報提供者の立場を示す定義であると説明しました。
そのうえで、倉庫業法の登録を受けていない倉庫の管理者や作業会社についても、貨物自動車運送事業法第2条第8項または同法第64条に該当する場合には、是正指導の対象となり得るとの考え方が示されています。
少なくとも、指針上の「倉庫業者」に該当しないことだけを理由に、当然に是正指導の対象外となるわけではありません。
自家用倉庫、賃借倉庫、構内作業の請負会社などは、倉庫業法の登録を受けていないことがあります。しかし、登録の有無と、貨物自動車運送事業法上の荷主に該当するかどうかは別に判断されます。
4.意見③|公正取引委員会・中小企業庁との情報共有
公正取引委員会との連携に関する意見に対して、国土交通省は、指針のV-3(1)に、公正取引委員会及び中小企業庁との情報共有をすでに定めていると回答しました。
指針では、トラック・物流Gメンが把握した荷主の行為について、当時の下請法、現在の取適法に関する情報を含むと判断した場合には、情報提供者からあらかじめ申出がない限り、公正取引委員会及び中小企業庁へ情報を共有することがあるとされています。
さらに国土交通省は、取適法の施行後は、公正取引委員会及び中小企業庁との連携を一層進める方針を示しました。
私が求めた省庁間の連携は、指針案にすでに盛り込まれていました。
今回の回答により、その内容が確認されるとともに、取適法施行後に連携を強める方針まで明らかにされました。
5.ただし、「対象となり得る」は「必ず対象になる」ではありません
今回の回答によって、納品現場で起きている問題がすべて解消されたわけではありません。
国土交通省の回答は、「取引の形態に応じて対象となり得る」「法上の荷主に該当する場合は対象となり得る」という条件付きのものです。
作業会社の担当者がドライバーへ直接指示したという事実だけで、その作業会社が必ず直接の是正指導対象になるわけではありません。
たとえば、着荷主が使用する倉庫の作業会社が、ドライバーへ棚入れや別場所への荷降ろしを求めた場合、その作業会社が法上の荷主に該当するか、誰の依頼を受けて行動していたか、運送契約の当事者との間でどのような交渉が行われていたかなどが確認されます。
また、着地で発生した附帯業務であっても、発荷主の積み方、パレットの指定、納品条件などが原因となっている場合には、発荷主に是正指導が向かうこともあります。
誰が対象になるかは、契約書上の名称だけではなく、実際の指示、貨物の受渡し、問題が生じた原因、発荷主と着荷主の関与を踏まえて判断されます。
6.発荷主が取るべき対応

発荷主は、「着地で起きたことだから自社は関係ない」と考えることはできません。
着荷主の施設で荷待ちや契約にない附帯業務が発生していても、その原因が発荷主側の出荷方法や納品条件にある場合には、発荷主の対応が確認されます。
| 確認項目 | 発荷主が決めておく内容 |
|---|---|
| 附帯業務 | 荷降ろし、仕分け、棚入れ、検品補助などを誰が行うのか、その内容と対価を運送契約の書面に記載します。 |
| 荷待ち | 到着時刻、受付方法、待機時間の計測、待機料金、請求方法を決めます。 |
| 出荷方法 | 積み方、パレット、荷姿などが、着地での積替えや長時間の荷役を発生させていないか確認します。 |
| 現場での変更 | 納品場所、納品時間、作業内容の変更が必要な場合の承認者と連絡方法を決めます。 |
| 運賃・料金の交渉 | 運送会社から根拠を示して申入れを受けた場合には、必要な説明や情報提供を行い、交渉の経過を残します。 |
これらを、運送契約書、物流仕様書、納品条件、附帯業務の覚書などに落とし込み、発荷主、着荷主、運送会社の間で確認できるようにしておく必要があります。
7.着荷主・倉庫の管理者・作業会社が取るべき対応
着荷主側も、「運送会社と直接契約していないから関係ない」と考えるのは危険です。
着荷主は、貨物を受け取る者として法上の荷主に該当する場合があります。倉庫業法の登録を受けていない管理会社や作業会社であっても、取引の形態によっては是正指導の対象となり得ます。
| 現場で決める事項 | 必要な対応 |
|---|---|
| ドライバーへ直接依頼できる範囲 | 受付、接車場所、安全上の案内と、契約外の作業依頼を分けます。 |
| 契約外の作業が必要になった場合 | 現場担当者の判断だけで依頼せず、発荷主または運送契約の担当者へ確認します。 |
| 納品条件の変更 | 別場所への荷降ろし、納品時間の変更、持ち戻り、再配達などの連絡手順を決めます。 |
| 待機・追加作業の費用 | 誰が費用を負担し、どのように発荷主へ連絡するのかを決めます。 |
| 委託先の作業会社 | 作業会社の担当者にも、ドライバーへ依頼してよいことと、確認が必要なことを周知します。 |
現場担当者の一言であっても、長時間の荷待ち、契約にない附帯業務、無理な運送依頼として是正指導上の問題につながることがあります。
8.運送事業者が取るべき対応と情報提供の方法

運送事業者やドライバーが、着荷主や倉庫の現場で契約外の作業、荷待ち、納品場所の変更、持ち戻りなどを求められた場合、その場で対応して終わらせるのではなく、あとから確認できる記録を残すことが重要です。
| 残す記録 | 記録する内容 |
|---|---|
| 指示の内容 | 誰から、いつ、どこで、どのような作業や待機を求められたのかを残します。 |
| 拘束時間 | 入退場時刻、受付時刻、荷役の開始・終了時刻、待機時間を記録します。 |
| 発荷主への確認 | 追加作業や変更について発荷主へ確認した日時、回答者、回答内容を残します。 |
| 費用の取扱い | 追加作業、荷待ち、持ち戻り、再配達の費用を誰が負担するのかを確認します。 |
| 証拠資料 | 入退場記録、デジタコデータ、日報、運送依頼状、作業指示書、メール、チャット、証拠画像などを保存します。 |
情報を提供できる窓口
| 情報提供先 | 情報提供できる人 |
|---|---|
| 国土交通省ホームページの窓口 | 荷主の違反原因行為があると認める場合は、何人でも情報を提供できます。 |
| 地方運輸局・運輸支局のトラック・物流Gメン | 何人でも情報を提供できます。 |
| Gメン調査員 | 情報提供者が貨物自動車運送事業者またはその従業員である場合に情報を提供できます。 |
トラック・物流GメンまたはGメン調査員へ直接情報を提供した場合は、必要な事項が聴取できたと確認され、情報提供者が処理結果の通知を希望しているときに、処理結果通知の対象となります。通知は原則として情報提供の日から3か月以内とされています。
情報提供者の氏名等が荷主に推察されないよう配慮する取扱いも定められています。ただし、具体的な事案を調査するには、日時、場所、行為の内容、関係者、証拠資料が重要になります。
9.実務上の結論と今回のパブリックコメントの意味
今回のパブリックコメントによって、指針本文を大幅に書き換えることはできませんでした。
しかし、物流現場で契約の外側にいる着荷主、倉庫の管理者、作業会社の扱いについて、国土交通省から次の考え方が示されました。
| 国土交通省から示された考え方 | 実務上の意味 |
|---|---|
| 契約外の者も取引の形態に応じて対象となり得る | 運送契約を締結していないことだけを理由に、当然に対象外とはいえません。 |
| 「倉庫業者」の定義は主に情報提供者の立場を示す | 倉庫業法の登録がない管理者や作業会社も、法上の荷主に該当すれば対象となり得ます。 |
| 公正取引委員会・中小企業庁との情報共有が定められている | 同じ荷主行為について、国土交通省の是正指導と取適法への対応が並行して進む可能性があります。 |
今回の回答は「完全な解決」ではなく、「一定の前進」です。
対象になるかどうかは、実際の取引、貨物の受渡し、誰が指示したか、問題が生じた原因、発荷主・着荷主・作業会社の関与を踏まえて判断されます。
発荷主、着荷主、倉庫の管理者、作業会社、運送事業者の間で、誰が、誰に、何を指示し、その費用と責任を誰が負担するのかを明らかにする必要があります。
その内容を、運送契約書、物流仕様書、納品条件、作業ルール、日々の記録へ落とし込み、あとから説明できる状態にしておくことが、是正指導への備えになります。
同志社大学卒業後、パナソニックの物流部門および物流子会社にて物流法務と契約管理に携わり、物流業界での経験は30年以上。荷主企業と物流会社の双方の実務を通じ、物流部門単独では解決できない課題の所在を把握。
独立後は「荷主責任」を切り口としたコンプライアンス実務の専門家として、社内ルールの制定や委託仕様書の作成、社内研修を通じ、荷主企業のリスク低減を支援。







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