2025年10月1日、公正取引委員会は、取適法の施行に伴う明示規則、記録規則、運用基準などについて、意見募集の結果を公表しました。
今回の意見募集では124件の意見が提出され、その中に、当法人代表の楠本浩一が提出した3件の意見が、No.155、No.288、No.357として掲載されています。
公正取引委員会は、それぞれの意見に対する考え方を公表しました。さらに、同日公表された最終の明示規則、記録規則、運用基準には、特定運送委託の明示義務、無償荷役、荷待ち、突然の発注取消し、燃料費・労務費が上昇した場合の運賃据置きなど、物流取引に直接関係する内容が盛り込まれています。
明示規則、記録規則、運用基準は、取適法とともに2026年1月1日から施行されています。
私が提出した3件の意見

| 意見番号 | 対象 | 提出した意見の中心内容 |
|---|---|---|
| No.155 | 運用基準案 | 特定運送委託に関する説明が少なく、荷主企業が物流委託を対象外と誤認するおそれがあることを指摘しました。積み込み、棚入れ、ラベル貼りなどの附帯作業、荷待ち時間、運賃が空欄となっている運送申込書など、物流取引に即した説明や事例の追加を求めました。 |
| No.288 | 明示規則案 | 特定運送委託も明示義務の対象であることを分かりやすく示すよう求めました。特定運送委託向けの明示書式、運賃や附帯作業の記載例、契約書等を交わさない取引慣行への注意喚起も求めました。 |
| No.357 | 記録規則案 | 物流取引では電話、口頭、LINE、FAXなどによる日々の発注や変更が多く、保存すべき書類自体が作成されていない実情を指摘しました。運送申込書や支払通知書などの書式例、電磁的記録の取扱いを明らかにするよう求めました。 |
1.提出した要望のすべてが規則本文に入ったわけではありません

最初に確認しておかなければならないのは、3件の意見が公正取引委員会の意見公募結果に掲載されたことと、求めた内容がすべて規則本文に採り入れられたことは同じではないという点です。
No.155に対する回答は、意見を「今後の業務の参考」とする内容にとどまりました。No.288についても、特定運送委託専用の明示書式が新たに作られたわけではありません。No.357についても、LINE、音声記録、スクリーンショットなどを保存すれば、それだけで記録規則を満たすとの回答ではありません。
意見公募結果に3件の意見が掲載され、公正取引委員会から正式な回答が示されたことは成果ですが、規則本文を3件の意見によって直接変更させたと表現することはできません。
一方で、最終の運用基準には、今回問題提起した内容と重なる物流取引の具体例が多数盛り込まれています。
2.No.155に対して無償荷役への考え方が示されました
No.155に対して、公正取引委員会は、運送に係る役務提供委託または特定運送委託をした委託事業者が、中小受託事業者に運送を行わせることに加えて、無償で運送以外の役務を行わせることは、取適法第5条第2項第2号に該当すると回答しました。
公正取引委員会が回答で例示した作業は、荷積み、荷下ろし、倉庫内作業等です。
最終の運用基準第4の7-14「労務の提供要請」にも、特定運送委託で想定される違反行為として、自己の販売する商品の運送を委託した中小受託事業者に、運送以外の荷下ろし等の作業をさせる事例が掲載されました。
運送会社に運賃を支払っているからといって、積み込み、荷降ろし、仕分け、棚入れ、検品補助などを当然に無償で行わせることができるわけではありません。
運送以外の作業を依頼するのであれば、その内容と対価をあらかじめ決めておく必要があります。
3.荷待ち・当日取消し・運賃据置きも具体例に入りました
最終の運用基準には、無償荷役だけでなく、物流取引に直接関係する違反行為の例が複数掲載されています。
| 運用基準 | 物流取引で示された事例 | 荷主・元請が確認すべき点 |
|---|---|---|
| 8-10(2) 8-12(1) | 運送会社を長時間待機させながら、その待ち時間に必要な費用を負担しなかった事例です。 | 荷主側の出荷準備の遅れや物流センターの混雑による待機であっても、運送会社に一方的に負担させない取扱いが必要です。 |
| 8-11 | 運送を行う当日の朝に発注を取り消し、運送会社が負担した費用を支払わなかった事例です。 | 車両、ドライバー、回送など、取消しまでに発生した費用を誰が負担するのかをあらかじめ決める必要があります。 |
| 5-18 | 燃料価格の高騰や労務費の上昇が明らかな中で、運送会社が単価引上げを求めたにもかかわらず、十分な協議をせず従来の単価を据え置いた事例です。 | 価格上昇を示す資料や申入れ内容を確認し、協議の経過と回答理由を記録する必要があります。 |
| 9-3 | 中小受託事業者が具体的な引上げ額を提示したにもかかわらず、理由の説明や根拠資料の提供をせず、従来の代金を据え置いた事例です。 | 価格協議の申入れを形式的に受けるだけでなく、必要な説明と協議を行わなければなりません。 |
無償荷役だけが取適法対応ではありません。
荷待ち、突然の取消し、燃料費や労務費が上昇した場合の価格協議まで、物流取引に関する具体的な判断例が示されています。
4.No.288で特定運送委託の明示義務が確認されました
No.288に対して、公正取引委員会は、取適法における「製造委託等」には特定運送委託も含まれると回答しました。
そのうえで、特定運送委託を行う委託事業者も、当然に取適法上の義務や禁止行為に関する規定を守る必要があるとの考え方を示しています。
取適法第4条の明示義務は、製造委託だけに適用されるものではありません。特定運送委託では、発注時に、委託事業者と中小受託事業者を識別できる事項、委託日、運送内容、役務提供日または期間、役務提供場所、代金額、支払期日などを明示する必要があります。
年間の基本契約書を締結しているだけで、すべての明示義務を満たすとは限りません。
個々の運送について、運送区間、日時、貨物、車種、運賃、料金などが確認できず、基本契約書との関係も分からない場合には、必要事項を明示したとは評価されない可能性があります。
5.基本契約書と個別発注を組み合わせる方法は公取委が示しています

支払方法など、一定期間共通となる事項については、明示規則第1条第3項により、あらかじめ書面または電磁的方法で明示しておけば、発注のたびに同じ内容を繰り返して明示する必要はありません。
ただし、日々の個別発注と、あらかじめ明示した基本契約書や通知書との関係が分かるようにしておかなければなりません。
最終の運用基準は、その方法として、個別発注の際に、「代金の支払方法等については○年○月○日付けで通知した文書によるものである」などと明示し、個別発注と共通事項との関係を明らかにする方法を示しています。
| 書類 | 記載する内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 基本契約書・共通条件通知書 | 支払方法、支払期日、検査方法、一定期間共通する条件などを記載します。 | 適用期間と対象取引が分かる内容にする必要があります。 |
| 運送申込書・配車依頼書 | 委託日、運送区間、日時、貨物、車種、運賃、料金、附帯作業など、個別の運送条件を記載します。 | 共通条件を記載した文書の日付や名称を示し、両者の関係を明らかにします。 |
| 変更指示・追加作業記録 | 納品場所、納品時間、作業内容、待機、再配達などの変更内容と追加費用を記載します。 | 電話や口頭だけで終わらせず、あとから確認できる方法で残します。 |
基本契約書と個別の運送申込書、配車依頼書などを組み合わせる方法は、単なる実務上の工夫ではありません。明示規則と運用基準に公正取引委員会が示した方法です。
ただし、基本契約書に「運送業務一式」とだけ記載し、個別の発注内容や運賃を明らかにしない運用は適切ではありません。どの基本契約書や通知書を参照しているのかを示したうえで、個々の運送条件を明示する必要があります。
6.運賃の算定方法を示せば常に足りるわけではありません
明示規則は、代金について具体的な金額を明示することを原則としています。
算定方法による明示が認められるのは、明示規則第1条第2項に定める「具体的な金額を明示することが困難なやむを得ない事情がある場合」に限られます。
| 取扱い | 内容 |
|---|---|
| 算定方法による明示が認められ得る例 | 原材料費などが外的要因によって変動し、それに連動して代金額が変わる場合、あらかじめ定めた時間単価と実績作業時間によって金額が決まる場合、役務の種類・数量ごとの単価があらかじめ決まっている場合などです。 |
| 算定方法として不十分な例 | 「後日決定」「月末確定」「別途協議」とだけ記載し、算定の根拠となる単価、数量、時間、連動指標などが示されていない場合です。 |
| やむを得ない事情とは考えにくい例 | 担当者が忙しい、運賃決裁が間に合わない、社内手続に時間がかかるなど、委託事業者側の繁忙や社内事情を理由に金額を空欄にする場合です。 |
算定方法は、算定の根拠となる事項が確定すれば、具体的な金額が自動的に決まる内容でなければなりません。その後、具体的な金額が確定したときは、速やかに中小受託事業者へ明示する必要があります。
運賃欄を空欄のまま発注し、後から委託事業者が一方的に金額を決める運用は避ける必要があります。
7.No.357は「LINEを残せばよい」という回答ではありません
No.357に対して、公正取引委員会は、取適法第7条により、委託事業者は、取引内容や代金の支払などを記載または記録した書類もしくは電磁的記録を作成し、保存しなければならないと回答しました。
さらに、記録規則では、書類だけでなく、同規則第2条第3項の要件を満たす電磁的記録の作成・保存も定めていると説明しています。
| 電磁的記録に必要な機能 | 確認内容 |
|---|---|
| 訂正・削除履歴 | 記録を訂正または削除した場合に、その事実と内容を確認できる必要があります。 |
| 表示・出力 | 必要に応じて画面に表示し、書面に出力できる必要があります。 |
| 検索 | 取引先を識別する情報や委託日を条件として検索できる必要があります。 |
| 保存期間 | 必要事項のすべてを記載または記録した日から2年間保存しなければなりません。 |
したがって、LINEのメッセージやスクリーンショットが取引経過を確認する資料になることはありますが、スマートフォンに残しておくだけで記録規則を満たすとは限りません。
また、LINEやFAXに、運送内容、代金額、支払期日などの必要事項が記載されていなければ、その記録を保存していても不足します。
8.「明示」と「記録の作成・保存」は別々の義務です

| 区分 | 目的 | 主な内容 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 取適法第4条の明示 | 発注時に取引条件を中小受託事業者へ知らせるための義務です。 | 委託日、運送内容、役務提供日・場所、代金額、支払期日などを明示します。 | 社内システムに記録があっても、運送会社へ明示していなければ不足します。 |
| 取適法第7条の記録作成・保存 | 委託事業者が取引経過と支払内容をあとから確認できるようにする義務です。 | 実際の役務提供日、支払額、支払日、変更ややり直しの内容と理由などを記録します。 | 運送申込書を交付していても、支払や変更の記録を社内で残していなければ不足します。 |
運送会社へ何を伝えたかと、委託事業者が社内で何を記録したかを、分けて確認する必要があります。
9.荷主企業・元請運送会社が確認すべきこと
取適法の対象となる特定運送委託を行っている荷主企業や元請運送会社は、現在使用している基本契約書、運送申込書、配車依頼書、作業指示書、支払通知書などを確認する必要があります。
運送内容や運賃だけでなく、積み込み、荷降ろし、検品補助、棚入れ、ラベル貼り、仕分けなどを誰が行うのか、その対価をどのように扱うのかまで明らかにしておかなければなりません。
荷待ちが発生する可能性がある場合には、無料待機時間の有無、待機時間の計測方法、待機料金の額、請求方法をあらかじめ決めておく必要があります。
発注後に運送内容、納品場所、納品時間、作業内容などが変更された場合には、変更内容、指示者、変更日時、追加費用の取扱いを記録する必要があります。現場担当者が電話やチャットで変更を指示し、購買部門や物流部門がその事実を把握していない状態は避けなければなりません。
| 確認項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 対象取引 | 自社の発注のうち、どの取引が特定運送委託に該当するのかを把握しているか。 |
| 発注時の明示 | 委託日、運送内容、日時、場所、代金額、支払期日などを発注時に明示しているか。 |
| 書類の関連性 | 基本契約書、共通条件通知書、個別発注書の関係が分かるようになっているか。 |
| 運賃・料金 | 運賃や料金が空欄になっていないか。算定方法による場合は、やむを得ない事情があり、具体的な金額が決まる内容になっているか。 |
| 附帯作業・荷待ち | 作業内容、待機時間の取扱い、対価、請求方法を決めているか。 |
| 変更・取消し | 発注後の変更、追加作業、突然の取消しについて、内容と費用負担を記録しているか。 |
| 価格協議 | 燃料費や労務費の上昇に関する協議の申入れに応じ、回答理由を説明し、その経過を残しているか。 |
| 記録保存 | 支払額、支払日、変更理由などを2年間保存しているか。電磁的記録は検索、表示、出力、訂正・削除履歴の確認ができるか。 |
契約書を一度作成して終わりではありません。
日々の発注、変更、追加作業、荷待ち、取消し、価格協議、支払までを、一連の取引として確認できる状態にしておく必要があります。
10.今回のパブリックコメントの意義

今回のパブリックコメントによって、求めた内容のすべてが規則や運用基準に追加されたわけではありません。
一方で、当法人代表が物流現場の問題として指摘した内容が、公正取引委員会の正式な意見公募結果に3件掲載され、それぞれについて公正取引委員会の考え方が示されました。
| 最終の規則・運用基準で明らかになった点 | 物流取引への影響 |
|---|---|
| 特定運送委託も取適法の対象となる「製造委託等」に含まれます。 | 荷主企業や元請運送会社も、要件を満たす取引では取適法への対応が必要です。 |
| 特定運送委託を行う委託事業者にも明示義務が適用されます。 | 基本契約書だけでなく、日々の個別発注内容と代金額を確認できる状態が必要です。 |
| 無償で運送以外の荷下ろし等を行わせる行為が問題となります。 | 附帯作業の内容と対価をあらかじめ決める必要があります。 |
| 長時間の荷待ちに必要な費用を負担しない行為が問題となります。 | 待機時間の測定方法、待機料金、請求方法の取決めが必要です。 |
| 当日朝の突然の運送取消しに伴う費用を負担しない行為が問題となります。 | 取消料や実費負担の取扱いを明らかにしておく必要があります。 |
| 燃料費や労務費が上昇する中で、十分な協議をせず運賃を据え置く行為が問題となります。 | 価格協議に応じ、回答理由と協議経過を残す必要があります。 |
| 一定期間共通の事項は事前に明示し、個別発注との関係を明らかにする方法が認められています。 | 基本契約書と個別発注書を適切に組み合わせることができます。 |
| 所定の要件を満たす電磁的記録による作成・保存が認められています。 | LINEを残すだけではなく、検索、表示、出力、訂正・削除履歴の確認ができる保存方法が必要です。 |
法令の文章だけでは見えにくい、日々の運送発注、運賃の空欄、無償の附帯作業、荷待ち、突然の取消し、口頭やLINEによる変更指示まで踏まえて意見を提出したことに、今回の意義があります。
取適法への対応で必要になるのは、ひな形の契約書を用意することだけではありません。
誰が、いつ、どのような運送を依頼し、どの作業を求め、いくら支払い、途中で何を変更したのか。この内容を運送会社へ明示し、社内でも記録し、あとから説明できる状態にしておくことが求められます。
同志社大学卒業後、パナソニックの物流部門および物流子会社にて物流法務と契約管理に携わり、物流業界での経験は30年以上。荷主企業と物流会社の双方の実務を通じ、物流部門単独では解決できない課題の所在を把握。
独立後は「荷主責任」を切り口としたコンプライアンス実務の専門家として、社内ルールの制定や委託仕様書の作成、社内研修を通じ、荷主企業のリスク低減を支援。







