特定運送委託で全国初の勧告 協議中・支払済みでも勧告を免れなかった理由

特定運送委託で全国初の勧告 協議中・支払済みでも勧告を免れなかった理由

「附帯業務料は協議中です」「金額が決まり次第、支払います」。それでも、勧告は免れませんでした。

2026年7月10日、公正取引委員会は、ミネベアアクセスソリューションズ株式会社に勧告を行いました。

同社は、自動車部品の運送を委託していた運送会社1社に、2026年1月から4月までの4か月間、積み込み、荷降ろしなどを無償で行わせていました。その合計時間は546時間26分です。公正取引委員会は、これを取適法が禁止する「不当な経済上の利益の提供要請」に当たると判断しました。特定運送委託に関する全国初の勧告です。

今回の勧告で注目すべき点は2つあります。

1つは、積み込みや荷降ろしなどの作業そのものを「運送」と認定したわけではないのに、取適法違反になったことです。

もう1つは、同社が法改正への対応として運送会社との協議を始め、勧告前に附帯業務料を支払い終えていたにもかかわらず、勧告を免れなかったことです

法改正を知っていることと、対応が終わっていることは別です。今回の勧告は、その違いをはっきり示しました。

1.ミネベアアクセスソリューションズに何があったのか

(1)問題になったのは、金型の保管と運送時の作業

今回の勧告では、二つの行為が問題になりました。

1つ目は、部品の製造を委託していた取引先36社に、合計846個の金型等を、保管費用を支払わずに保管させていたことです。

2つ目が、今回取り上げる運送の問題です。部品の運送を委託していた運送会社1社に、積み込み、荷降ろし、その他の附帯業務を、費用を支払わずに行わせていました。

ちらも、本来は費用を支払うべき負担を取引先に無償で負わせたとして、「不当な経済上の利益の提供要請」に当たると判断されました。金型の保管には改正前の下請法が、運送に伴う作業には取適法が適用されています。

(2)546時間26分は、トラックを運転した時間ではない

勧告で認定された546時間26分は、部品をトラックで運んだ時間ではありません。

運送会社が、積み込み、荷降ろし、その他の附帯業務に費やした時間です。4か月で割ると、月平均約137時間になります。

つまり、本来の運送とは別に、毎月平均で約137時間分の作業が無償で行われていたことになります。

(3)全額を支払った後に勧告された

ミネベアアクセスソリューションズの発表によると、2026年1月から4月までの附帯業務料は129万8,325円でした。同社は運送会社と協議し、5月26日に支払を完了しています。

公正取引委員会も、勧告を公表した時点で、不利益額が全額支払われていたことを明らかにしています。それでも、7月10日に勧告は行われました。

後から附帯業務料を支払うことは、運送会社が受けた不利益を回復するために必要です。しかし、全額を支払えば、それまで無償で作業を行わせていた事実までなくなるわけではありません。

2.積み込み・荷降ろしは「運送」ではないのに、なぜ取適法違反になったのか

(1)附帯業務を「運送」と認定した勧告ではない

今回の勧告は、積み込み、荷降ろし、その他の附帯業務そのものを、特定運送委託の「運送」に含めたものではありません。

公正取引委員会は、荷積み、荷降ろし、倉庫内作業などを、原則として「運送」とは別の作業として整理しています。この考え方は、今回の勧告でも変わっていません。

取適法の対象となったのは、自動車部品を取引相手等まで届けるための運送委託です。この運送が「特定運送委託」に該当します。

問題になったのは、その運送に加えて、積み込み、荷降ろし、その他の附帯業務を、運送会社に無償で行わせていたことです。

(2)運送会社の人手と時間を無償で使ったことが違反になった

分かりやすく整理すると、次のようになります。

特定運送委託=自動車部品を取引相手等まで運ぶ

運送とは別の作業=積み込み、荷降ろし、片付けなどを行う

不当な経済上の利益の提供要請=その別の作業を無償で行わせる

「運送ではないから取適法の対象外」なのではありません。

定運送委託をしている運送会社に対し、本来の運送とは別の作業まで無償で行わせれば、荷主は運送会社から人手と時間という利益を無償で受けたことになります。これが、取適法の禁止する「不当な経済上の利益の提供要請」です。

公正取引委員会の運用基準でも、特定運送委託をした事業者が、運送に加えて荷積み、荷降ろし、倉庫内作業などを無償で提供させる行為は、取適法第5条第2項第2号に該当すると明記されています。

(3)金型の無償保管と考え方は同じ

同じ勧告で認定された金型の無償保管と比較すると、今回の取扱いが分かりやすくなります。

金型を保管すること自体は、自動車部品を「製造すること」ではありません。それでも、部品の製造を委託している取引先に、製造とは別の金型保管の負担を無償で負わせれば、不当な経済上の利益の提供要請になります。

運送も同じです。積み込みや荷降ろしを「運送」に含めたのではなく、特定運送委託をしている運送会社に、運送とは別の負担を無償で負わせたことが違反になりました。

金型には改正前の下請法、荷役・附帯業務には取適法が適用されていますが、法律の考え方は共通しています。本来は費用を支払うべき作業を、取引先に無償で行わせてはならないということです。

3.協議中・支払済みでも勧告を免れなかった理由

(1)法改正への対応を始めていた

ミネベアアクセスソリューションズは、何も対応していなかったわけではありません。

同社の公表文によれば、2026年1月の取適法施行に合わせて運送委託先に法改正の内容を説明し、附帯業務料の明文化と算出方法について協議を始めていました。しかし、実際の作業の整理や見積方法の確認に想定以上の時間がかかり、報酬の合意と支払が遅れたと説明しています。これは公正取引委員会の認定ではなく、同社側が公表した経緯です。

(2)「協議中」は、無償作業を続けてよい理由にならない

今回の勧告から分かるのは、附帯業務料について話し合っているだけでは足りないということです。

金額が決まっていなくても、その間に積み込みや荷降ろしを続けさせれば、運送事業者の人手と時間は現実に使われています。「現在協議中なので、決まるまでは無償」という扱いにはできません。

額の確定に時間がかかる場合には、暫定的な単価や算定方法、対象となる作業、後日の精算方法を決めるなど、無償の状態を残さない対応が必要です。

(3)勧告前に全額支払っただけでは足りない

同社は、2026年1月から4月までの附帯業務料129万8,325円を、勧告前の5月26日に支払っています。公正取引委員会も、不利益額の全部が支払われたことを確認した上で、7月10日に勧告しました。

ここで知っておくべきなのが、違反行為の自発的な申出です。

公正取引委員会には、調査に着手する前に違反を自ら申し出た上で、違反行為の取りやめ、不利益の回復、再発防止、調査への全面的な協力など、複数の要件を満たした場合には、勧告まで行わない取扱いがあります。令和7年度には53件自発的な申出があり、この取扱いによって12億円を超える原状回復が行われています。

本件では勧告が行われており、この取扱いの対象にはなりませんでした。

調査を受けた後に全額を支払うことと、調査前に自ら違反を申し出て是正することは同じではありません。「協議を始めた」「勧告前に支払った」という対応だけで、既に行われた違反までなくなるわけではないということです。

4.荷主が確認すべきこと

(1)契約書ではなく、現場で行われている作業を確認する

荷主が最初に確認すべきなのは、契約書の文言ではなく、工場、倉庫、物流センター、納品先で運送事業者が実際に何をしているかです。

積み込み、荷降ろし、検品、棚入れ、ラベル貼り、パレットの整理、片付け、清掃など、契約書や発注書に書かれていない作業が、長年の慣行として続いている場合があります。「以前から運転手にやってもらっている」という理由だけで、無償のまま続けることはできません。

特に注意が必要なのは、本社が把握しないまま、各拠点の担当者や納品先が運送事業者へ直接作業を指示している場合です。納品先からの指示であっても、取引の実態から荷主が行わせたと評価されれば、荷主側の問題になります。

(2)発生している作業を整理し、内容と対価を決める

2章で説明したとおり、積み込みや荷降ろしは、原則として運送とは別の作業です。そのうえで、自社の取引でどのような作業が、どの拠点で、どれだけ発生しているかを確認します。

次に、作業内容、附帯業務料の算定方法、作業時間の記録方法、誰が作業を指示できるのか、追加作業が生じた場合の承認方法を決めます。

金額の協議に時間がかかる場合でも、その間を無償のままにしてはいけません。暫定単価を決め、後から差額を精算するなど、運送事業者の負担だけが先に発生する状態を避ける必要があります。

(3)発注書を直すだけでは終わらない

取適法への対応として、契約書や発注書の様式を変更するだけでは十分ではありません。

現場の担当者が従来どおり口頭で追加作業を指示し、その記録が残らず、附帯業務料も支払われなければ、書面を整えても実際の取引は変わっていません。

荷主には、現場の作業を把握し、作業内容と対価を決め、発注時に明示し、実績を記録して確実に支払うところまで一貫して管理することが求められます。今回の勧告を、運送事業者との価格交渉だけの問題として終わらせず、自社の各拠点や納品先に無償の附帯業務が残っていないかを確認する必要があります。

5.まとめ|特定運送委託に対応できる体制をつくる

今回の勧告は、積み込みや荷降ろしを「運送」と認定したものではありません。特定運送委託をしている運送事業者に、運送とは別の作業を無償で行わせたことが、「不当な経済上の利益の提供要請」に当たると判断されたものです。

また、法改正への対応を始め、附帯業務料について協議し、勧告前に全額を支払っていても、既に行われた違反がなくなるわけではありません。調査前に自ら違反を申し出る場合と、調査を受けた後に支払う場合は、取扱いが異なります。

荷主企業に必要なのは、契約書や発注書の修正だけではありません。各拠点や納品先で行われている作業を確認し、作業内容、対価、指示できる者、承認方法、作業実績の記録、支払まで一貫して管理する必要があります。

特定運送委託に対応できる体制をつくっていくことが重要です。

行政書士法人運輸交通法務センターでは、自社に問題がないか確認したい荷主企業を対象に、30分無料相談を行っています。契約、発注、附帯業務、支払方法などを具体的に確認する物流下請法リスク診断、全社的なルールづくりと現場運用への落とし込みを進める物流ガバナンス設計プロジェクトにも対応しています。

法人代表/行政書士 楠本浩一(くすもと こういち)プロフィール

同志社大学卒業後、パナソニックの物流部門および物流子会社にて物流法務と契約管理に携わり、物流業界での経験は30年以上。荷主企業と物流会社の双方の実務を通じ、物流部門単独では解決できない課題の所在を把握。
独立後は「荷主責任」を切り口としたコンプライアンス実務の専門家として、社内ルールの制定や委託仕様書の作成、社内研修を通じ、荷主企業のリスク低減を支援。

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