適正原価割れで荷主も是正指導の対象に?

2026年10月19日に開催された第4回「適正原価の設定に向けた有識者検討会」では、適正原価の算定方法に加え、運送会社が適正原価を下回る運賃・料金を収受している場合に、荷主や元請運送事業者へどのように対応するのかについて具体案が示されました。
ここで荷主側から見ると疑問が生じます。荷主は、取引先の運送会社が実際にいくらの原価で運んでいるのか、通常は把握していません。それにもかかわらず、運送会社が適正原価を下回っていたことを理由として、荷主が是正指導を受けるのでしょうか。

運送会社全体の判定と荷主の責任は別に考える

経済産業省の資料では、適正原価について、個別の運送契約ごとではなく、一定期間における運賃・料金収入と適正原価を比較して判断する場合、会社全体の判定結果と個々の荷主・取引との関係を明確にする必要があるとの意見が示されています。
荷主が契約しているのは通常、元請運送事業者です。その先に何社の運送事業者が入り、実運送事業者へいくら支払われているのかまで把握できない場合もあります。経済産業省が集めた意見でも、荷主が個別企業別、実運送事業者別の適正原価や委託状況を把握することには限界があるため、荷主が確認すべき事項と責任範囲を明確にするよう求めています。
したがって、運送会社全体で適正原価を下回ったことと、特定の荷主がその原因となる行為をしたことは分けて判断する必要があります。

書面等による協議の申入れが一つの入口に

国土交通省の資料6では、適正原価を下回らない運賃・料金を収受する義務を負うのは、まずトラック運送事業者であるとの考えが示されています。
そのため、運送会社から荷主に対して、適正原価を下回らない運賃・料金を収受するための書面等による協議の申入れが行われていない場合には、原則として荷主を是正指導の対象としない案が示されています。

運送会社が適正原価を下回っていたことだけで、直ちに荷主が是正指導の対象になるわけではありません。

一方、貨物運送業許可更新制の更新申請、巡回指導、監査などで、運送会社が一定期間に収受した運賃・料金が適正原価を下回っていることが確認され、その原因として荷主による運賃・料金の不当な据置きや契約にない附帯作業などが疑われる場合には、荷主が是正指導の対象となる可能性があります。
ただし、運送会社から値上げを求められたからといって、その金額を荷主が無条件に受け入れなければならないという意味ではありません。何を根拠として改定を求めているのかを確認し、双方で協議することになります。

適正原価割れの原因によって適用される法律が変わる

資料6の17~18ページで注目したいのは、適正原価割れの原因が発荷主だけにあるとは限らないことを前提としている点です。
例えば、着荷主による厳しい納品時刻の指定が長時間の荷待ちにつながっている場合、発荷主だけでは条件を変更できないことがあります。また、荷主が元請運送事業者へ十分な運賃を支払っていても、元請運送事業者が実運送事業者へ低い運賃で委託している場合もあります。
国土交通省は、元請運送事業者が実運送事業者へ適正原価を下回る運賃・料金で継続的に委託する場合、貨物自動車運送事業法に基づく是正指導だけでなく、事業停止などの行政処分の対象となり得るとの方向を示しています。

さらに、その原因が着荷主や上位の委託事業者にある場合には、貨物自動車運送事業法だけでなく、中小受託取引適正化法や独占禁止法に基づく物流特殊指定なども含めて対応する案が示されています。

具体的には、トラック・物流Gメンによる貨物自動車運送事業法上の是正指導、中小受託取引適正化法に基づく指導・助言・勧告、公正取引委員会による独占禁止法に基づく物流特殊指定の注意・警告・排除措置命令、取引GメンやフードGメンによる対応などを組み合わせ、関係行政機関が一体となって対応するイメージです。
適正原価への対応は、貨物自動車運送事業法だけを確認していればよい話ではありません。
反対に、実運送事業者が適正原価を下回っていたとしても、その原因が元請運送事業者による運賃の切下げにあるのであれば、発荷主だけに責任を求めることも適切ではありません。

誰が適正原価割れの原因となる行為を行ったのかを確認し、その取引関係に応じた法律で対応するという考え方です。

荷主は協議の経過を残しておく

荷主がすべての実運送事業者の個別原価を調べることは現実的ではありません。農林水産省のヒアリングでも、運送会社から提示された金額について荷主が合理性を確認できる透明性は必要である一方、詳細な原価情報まで荷主が監査する仕組みは負担が大きいとの意見が示されています。
筆者は、荷主側で今から準備できることの一つが、運賃・料金の協議経過を説明できる状態にしておくことだと考えます。

運送会社から協議の申入れを受けた日、対象となる契約や運行、提示された運賃・料金とその根拠、人件費・燃料費・荷待ち・荷役・附帯作業などの説明、双方が提示した資料、回答内容とその理由などを残しておくことが実務上有用です。

これは現時点で、これらすべての記録保存が法律上義務付けられているという意味ではありません。
しかし、将来、運賃・料金の据置きや契約にない附帯作業が適正原価割れの原因ではなかったか確認される場面では、最終的な契約金額だけでなく、どのような協議を行ったのかを説明できることが役立ちます。

適正原価は「金額」だけを見ても足りない

適正原価を下回る運賃・料金を是正することは必要です。
一方、荷主から見れば、運送会社の原価を知ることのできない状況で、どこまで確認すれば責任を果たしたことになるのかが分からなければ対応できません。
第4回で示されたのは、適正原価の金額だけではありません。適正原価割れが確認されたときに、その原因となった取引をたどり、貨物自動車運送事業法、中小受託取引適正化法、独占禁止法に基づく物流特殊指定などを使って関係行政機関が対応するという考え方まで示されています。
荷主企業にとっては、「適正原価はいくらになるのか」と同じくらい、運送会社から協議を申し入れられたときに何を確認し、どう協議し、その経過をどう残すのかが実務上の課題になります。

※本記事について
本記事は、2026年10月19日に開催された第4回「適正原価の設定に向けた有識者検討会」の公表資料をもとに作成しています。荷主への是正指導、中小受託取引適正化法、独占禁止法に基づく物流特殊指定との連携を含め、具体的な運用方法は検討段階であり、確定したものではありません。