- 物流効率化法は2026年4月から、特定荷主への規制的措置が開始
- 前年度の取扱貨物重量が年間9万トン以上の荷主は、特定荷主として指定される可能性がある
- 特定荷主に指定された企業には、CLOの選任・中長期計画の作成・定期報告の提出が必要
- 対応を怠った場合、指導・勧告・公表・命令・罰則の対象となる可能性がある
- 物流効率化法は物流部門だけでなく、発注・納品・販売・調達・在庫管理・受入体制まで含めた社内全体の見直しを求める法律
この記事を書いた人
行政書士 楠本浩一(行政書士法人運輸交通法務センター 代表)
パナソニックの物流部門・物流子会社にて20年以上、全国100か所以上の物流拠点に入り、契約、発注、支払、附帯作業、荷待ち、荷役、委託先管理の実務を確認してきました。
著書:荷主と物流会社のための物流下請法と「法令違反」防止ガイド

1.物流効率化法とは何か——制度の概要
物流効率化法の正式名称は、「物資の流通の効率化に関する法律」です。もともとは「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律」という名称でしたが、2024年の改正により、法律の題名と内容が大きく変わりました。改正法は2024年4月26日に成立し、同年5月15日に公布されています。
国は、令和10年度までの目標として、荷待ち・荷役等時間を1運行当たり平均2時間以内に短縮し、積載効率を現状の約40%から約44%へ引き上げる方向を示しています。
物流効率化法は、トラック会社だけを変える法律ではありません。荷主企業の発注条件、納品条件、受入体制、社内の意思決定まで見直すことを求める法律です。
2.なぜ「荷主」が規制対象になったのか
物流効率化法を理解するうえで、最も重要なのは、なぜ荷主が規制対象になったのかという点です。これまで国は、主にトラック事業者側への規制や指導によって、物流改善を進めてきました。しかし、現場の荷待ち時間や長時間拘束、低い積載効率は、運送会社だけでは解決できませんでした。
営業部門は顧客対応を優先し、短い納期を約束する。調達部門はコストを優先し、細かい納入条件を設定する。生産部門は出荷平準化に十分協力しない。物流部門は、最後に現場で調整する。その結果、荷待ち、緊急配送、積載率の低下、長時間拘束が運送会社側に集中します。
だからこそ、CLOが必要になります。営業、調達、生産、販売、経営を横断して、物流に関する社内の判断を動かせる立場でなければ、制度の趣旨に合いません。
3.荷主の種別と義務——自社はどこに該当するか
物流効率化法では、荷主をその立場によって整理しています。
注意すべきなのは、1つの会社が第一種荷主と第二種荷主の両方に該当する場合があることです。製造業であれば、得意先への出荷では第一種荷主、原材料の受取では第二種荷主になり得ます。重量の算定は、それぞれの立場ごとに確認する必要があります。
4.特定荷主の指定基準——「9万トン」の算定ルール
前年度の取扱貨物重量が、第一種荷主または第二種荷主として年間9万トン以上となる場合、特定荷主として指定を受ける可能性があります。この9万トンは、まず確認すべき基準です。
5.施行スケジュールと対応期限
特定荷主の指定通知は、2026年4月以降、順次行われます。指定通知を受けてから対応を始めるのでは、貨物重量の把握、CLO候補者の選定、中長期計画の作成が間に合わない可能性があります。9万トンに近い企業や、複数拠点を持つ企業は、早めに自社の該当可能性を確認しておく必要があります。
6.特定荷主が果たすべき3つの法的義務
特定荷主に指定された企業には、主に3つの対応が求められます。
1つ目:CLOの選任
CLOは、物流効率化を全社的に進める責任者です。役員または部門長級から選任することが想定されています。大事なのは肩書きだけではありません。営業、調達、生産、販売、物流など、複数部門をまたぐ課題に対して、実際に指示や調整ができる立場かどうかです。物流部長を形式的にCLOにしても、他部門に働きかける権限がなければ、実務は動きません。
2つ目:中長期計画の作成と提出
中長期計画では、荷待ち時間の短縮、荷役時間の短縮、積載効率の向上などについて、目標と取り組み内容を整理します。形式的な計画書を作るだけでは足りません。実際にどの拠点で待機が発生しているのか、どの取引で積載効率が低いのか、どの部門の運用を変える必要があるのかを把握したうえで、社内に残る計画にする必要があります。
3つ目:定期報告の提出
毎年度、取り組み状況や実績を行政に報告します。荷待ち時間や荷役時間、積載効率に関する実績を把握し、報告できる状態にしておかなければなりません。
7.努力義務の内容——特定荷主以外の企業も対象
物流効率化法は、特定荷主だけの法律ではありません。特定荷主に該当しない企業であっても、すべての荷主に対して努力義務が課されています。
積載効率の向上
リードタイムの確保、出荷や入荷の平準化、配送ルートや発注単位の見直しなどが問題になります。急な出荷や小口多頻度配送が続けば、トラックの積載効率は上がりません。
荷待ち時間の短縮
トラック予約受付システムの導入、入出荷時間の分散、受付や検品の流れの見直しが重要になります。注意すべきなのは、予約枠を設定しただけでは足りないことです。実際に車両が構内に到着してから荷役が始まるまでの時間が長ければ、現場の負担は減りません。
荷役時間の短縮
パレット化、検品レス化、受領確認の簡素化、事前ピッキングなどが実務上の対応になります。ドライバーに荷役作業を任せるのではなく、荷主側の現場運用を変えることが必要です。
8.違反した場合の行政対応
実務上本当に重いのは、罰金の金額だけではありません。企業名の公表、行政対応の負担、取引先や社内監査への説明、役員への報告が発生することです。物流効率化法対応は、単なる届出事務ではありません。企業として、物流に関する説明責任を果たせる状態にしておく必要があります。
9.物流効率化法と物流下請法(取適法)の関係
物流効率化法への対応で見落としやすいのが、取適法との関係です。物流効率化法と取適法は、目的が異なります。
たとえば、物流効率化法に基づいて荷待ち時間の短縮を掲げながら、現場では契約外の荷役作業を無償で求めている場合、効率化の問題だけでなく、取引適正化の問題にもなり得ます。また、運送会社から運賃改定の申入れがあったにもかかわらず、協議に応じず従来単価を一方的に維持する場合、取適法上の問題が生じる可能性があります。

10.よくある質問(Q&A)
Q1 自社が特定荷主に該当するか判断できません。
まず確認すべきなのは、前年度の取扱貨物重量です。第一種荷主としての重量、第二種荷主としての重量を、それぞれ確認します。物流子会社や3PLを利用している場合も、自社の貨物がどのように運ばれているのか、誰が物量や納品条件を決めているのかを確認する必要があります。9万トンに近い場合は、早めに社内で算定し、必要に応じて提出先となる行政機関に確認することが現実的です。
Q2 CLOは誰が担うべきですか。物流部長では不十分ですか。
CLOは、役員または部門長級から選任することが想定されています。物流部長でも、営業、調達、生産、販売などに対して調整や指示ができる立場であれば、候補になり得ます。一方で、物流部門内の調整しかできない場合は、制度の趣旨に合わない可能性があります。CLOに必要なのは、肩書きではなく、社内を横断して物流条件を動かせる実質的な権限です。
Q3 工場への入荷は第二種荷主に該当しますか。
自社が運送契約を締結していない場合でも、貨物の受渡しに関与する場合は、第二種荷主に該当する可能性があります。製造業や卸売業では、出荷時は第一種荷主、入荷時は第二種荷主として、それぞれ確認が必要になるケースがあります。特に、工場の受入時間、検品方法、荷降ろし方法、バースの運用などを自社が決めている場合は、第二種荷主としての対応を確認しておく必要があります。
Q4 物流子会社に委託している場合、親会社も対象になりますか。
物流子会社に委託しているからといって、親会社が常に対象外になるわけではありません。親会社が出荷計画、物量、納品条件、リードタイム、受入条件などを実質的に決めている場合、自社が荷主としてどの立場にあるのかを確認する必要があります。誰が物流条件を決め、誰の貨物として運ばれているのかを確認することが重要です。
Q5 荷待ち時間を測定する際の起算点はいつですか。
Q6 荷役作業はどこまで荷主側が負担すべきですか。
物流効率化法は、荷役時間の短縮を求めています。契約にない荷役作業をドライバーに任せ続ける運用は、物流効率化法上の問題だけでなく、取適法上の問題にもつながり得ます。荷主側としては、パレット化、検品レス化、事前ピッキング、受領確認の簡素化などにより、荷役時間を短縮する取組が必要です。
Q7 宅配便は算定対象になりますか。
一定の小口貨物については、算定対象から除外できる場合があります(例:1個30キログラム以内で、1運送あたりの合計重量が150キログラム未満のものなど)。ただし、宅配便という名称だけで一律に除外できるわけではありません。重量、個数、運送の単位、取引実態を確認する必要があります。
Q8 中長期計画はどの程度の内容が必要ですか。
中長期計画では、荷待ち時間、荷役時間、積載効率などについて、目標と取り組み内容を記載する必要があります。形式的な計画書を作るだけでは足りません。どの拠点で、どの取引に、どの課題があり、どの部門が改善に関わるのかまで整理しなければ、実務では動きません。行政調査や社内監査で確認されたときに、実態と説明が合う計画にしておく必要があります。
同志社大学卒業後、パナソニックの物流部門および物流子会社にて20年以上、物流法務と契約管理に従事。荷主企業と物流会社の双方での実務経験を持ち、現場の課題と制度の両面を熟知しています。
現在は行政書士として独立し、「荷主責任」を切り口に物流コンプライアンスの実務指導・契約チェック・社内研修を展開。『物流下請法』の著者として、出版やセミナーを通じて最新の法改正や実務対応を提言し、制度改善に向けた提言活動にも取り組んでいます。荷主責任に関する実務指導の第一人者として、高い評価を得ています。







