荷待ち・支払遅延・運賃据置き・附帯作業で荷主が注意すべき実務ポイント
令和8年6月25日、公正取引委員会は「令和7年度における荷主と物流事業者との取引に関する調査結果等について」を公表しました。
前回の記事では、荷主105社に立入調査が行われ、荷主779社に注意喚起文書が送付されたこと、そして最も多かった行為類型が「不当な給付内容の変更及びやり直し」であり、その中でも荷待ちに関するものが多かったことを整理しました。
今回の記事では、公正取引委員会が公表資料の中で示した荷主Aから荷主Xまでの具体的事例を取り上げます。
これらの事例は、特別に悪質な会社だけの話ではありません。
製造工程が遅れる。出荷準備が間に合わない。バースが混雑する。物流事業者から値上げ要請がないので価格を据え置く。運賃に荷積み作業も含まれていると考える。支払処理が遅れる。
いずれも、物流現場では起こり得ることです。
しかし、公正取引委員会は、こうした日常的な取引の中に、独占禁止法(物流特殊指定)上の問題につながるおそれがあると見ています。本記事では、各事例について、何が法的に問題となり得るのかを整理します。
この記事を書いた人
行政書士 楠本浩一(行政書士法人運輸交通法務センター 代表)
パナソニックの物流部門・物流子会社にて20年以上、全国100か所以上の物流拠点に入り、契約、発注、支払、附帯作業、荷待ち、荷役、委託先管理の実務を確認してきました。
著書:荷主と物流会社のための物流下請法と「法令違反」防止ガイド





1.荷待ち・出荷変更・当日中止に関する事例
最初に取り上げるべきは、荷待ちや出荷変更、当日中止に関する事例です。
荷主Aは、自社工場で荷物を引き渡す際、製造工程の遅れにより、物流事業者との間で取り決めていた時刻までに出荷準備が間に合わず、数時間の荷待ちを発生させました。しかし、荷待ちによって物流事業者に生じる追加費用の算定方法をあらかじめ定めておらず、物流事業者からも追加費用の請求がなかったため、人件費等の追加費用を支払っていませんでした。
この事例で問題となるのは、荷待ちが発生したこと自体だけではありません。荷主側の事情によって物流事業者を待機させたにもかかわらず、その待機によって発生する費用をどのように扱うのかを定めていなかった点です。
ドライバーが待機している時間は、物流事業者にとって人件費と車両費の負担になります。次の運行に使えない時間でもあります。荷主側から見れば「出荷が少し遅れた」だけでも、物流事業者側では運行全体に影響が出ることがあります。
荷主Bも同様に、繁忙期に自社倉庫で出荷準備が間に合わず、荷待ちを発生させたにもかかわらず、追加費用の算定方法を定めておらず、物流事業者から請求がなかったことを理由に追加費用を支払っていませんでした。
荷主Cは、物流事業者のトラックが到着してから、事務手続の遅れにより出荷日の変更や取消しを行いましたが、物流事業者から請求がなかったことを理由に、追加費用を支払っていませんでした。荷主Dは、そもそも荷待ちが発生したかどうかを確認しておらず、物流事業者からの申出もなかったため、実際には荷待ちが発生していたにもかかわらず、追加費用を支払っていませんでした。
荷主Eは、積み込みバースの混雑により、最大で2時間程度の荷待ちを発生させていました。しかし、これまでの慣習から、荷待ちによって物流事業者に生じる費用も運賃に含まれていると考え、追加料金を定めず、追加費用も支払っていませんでした。
荷主Fは、天候を理由に、物流事業者に委託した工事現場への資材納品を納品日当日に中止しました。しかし、物流事業者があらかじめ手配していた人員や車両に係る費用の補償を一切行っていませんでした。
これらの事例に共通しているのは、物流事業者に責任のない事情によって、待機、変更、取消しが発生している点です。
物流事業者がすでに人員や車両を手配している場合、その後に荷主側の都合で予定が変われば、物流事業者には実際の損失が発生します。その費用を支払わない、又は取扱いを決めていない場合には、物流事業者に一方的な不利益を与えるものとして、独占禁止法(物流特殊指定)上の問題につながるおそれがあります。
荷待ちや出荷変更は、現場の調整として処理されがちです。しかし、公正取引委員会の事例を見る限り、問題は現場で待たせたかどうかだけではありません。その待機や変更により生じた費用を、取引上どのように扱っていたかが問われています。

2.代金の支払遅延に関する事例
次に、代金の支払遅延に関する事例です。
荷主Gは、物流事業者に支払う運賃について、自社の都合により、あらかじめ定めていた支払期日に支払わず、数か月に分けて支払っていました。
荷主Hは、自社の営業所から本社事務センターへの手続が漏れていたことを理由に、あらかじめ定めていた支払期日を過ぎて運賃を支払っていました。荷主Iは、年末年始などの長期休業といった自社の都合を理由に、あらかじめ定めた支払期日を過ぎて運賃を支払っていました。
これらは、荷主側から見れば、社内処理上の問題に見えるかもしれません。資金繰り、営業所から本社への請求書回付、長期休業中の処理日程など、会社内部の事情として説明されることもあります。
しかし、物流事業者から見れば、運賃の支払遅延は資金繰りに直結します。
運送会社は、燃料費、人件費、車両費、保険料、傭車費などを日々負担しています。運賃が期日どおりに入金されなければ、その影響はすぐに資金繰りに出ます。荷主側の内部処理の都合で支払期日を過ぎることは、物流事業者に不利益を与える行為として問題になり得ます。
支払遅延は、現場ではなく管理部門で発生しやすい問題です。営業所、本社、経理部門、購買部門の処理がずれた結果、物流事業者への支払が遅れることがあります。しかし、社内の処理事情は、物流事業者に対する支払遅延を正当化する理由にはなりません。
物流取引では、運賃の金額だけでなく、支払期日を守ること自体が重要な取引条件です。
3.買いたたき・運賃据置きに関する事例
今回の公表資料で特に注意すべきなのが、買いたたきに関する事例です。
荷主Jは、労務費等のコスト上昇局面にあることを認識していました。物流事業者から運賃引き上げの要請があれば協議に応じるつもりでしたが、要請がなかったため、協議の場を設けることなく運賃を据え置いていました。
荷主Kは、前年度に物流事業者の要請に応じて運賃を引き上げていました。しかし、その後も労務費等のコスト上昇局面にあることを認識しながら、直近1年間に物流事業者から運賃引き上げの要請がなかったため、協議の場を設けることなく運賃を据え置いていました。
一般に、買いたたきというと、物流事業者から値上げ要請があったにもかかわらず、荷主が一方的に拒否した場面を想像しがちです。しかし、公正取引委員会が示しているのは、それだけではありません。
物流事業者から値上げ要請がなかった場合でも、労務費や燃料費などのコスト上昇を荷主が認識していながら、価格協議を行わずに運賃を据え置いていた場合には、独占禁止法(物流特殊指定)上の問題につながるおそれがあります。
物流事業者は、取引関係を考えて、値上げを言い出しにくいことがあります。特に、荷主との取引依存度が高い場合や、元請物流事業者を通じた取引の場合、実際に運送を行う事業者の声が荷主まで届きにくいこともあります。
そのため、「物流事業者から値上げ要請がない」という事実だけをもって、現在の運賃水準に問題がないと判断することは危険です。
公正取引委員会の事例が示しているのは、価格据置きの理由だけではありません。コスト上昇局面において、荷主が価格協議の機会を設けていたかどうかも問われるということです。
4.附帯作業・立替えに関する事例
次に、不当な経済上の利益の提供要請に関する事例です。
荷主Lは、物流事業者に対し、運賃に荷積み作業に係る対価が含まれていることを明示していませんでした。しかし、運賃には荷積み作業の対価も含まれていると考え、実際に物流事業者が行った荷積み作業に対する費用を支払っていませんでした。
この事例で問題となるのは、荷積み作業そのものではありません。荷積み作業の対価が運賃に含まれていることが明確にされていないにもかかわらず、荷主側が一方的に「運賃に含まれている」と考え、追加費用を支払っていなかった点です。
物流取引では、運送に付随して、荷積み、荷降ろし、検品、仕分け、棚入れなどの作業が発生することがあります。現場では「ついでにお願いします」と処理されることもあります。しかし、ドライバーが作業すれば、その時間と労力は物流事業者の負担になります。
作業範囲と対価が明確でないまま附帯作業をさせている場合、物流事業者に不利益を与えるものとして問題になり得ます。
荷主Mは、海外から調達した商品の自社事業拠点までの運送業務を委託しているところ、その運送業務に附帯する輸入通関業務について、税関への関税・消費税の納付を物流事業者に立て替えさせていました。
この事例では、運送そのものではなく、運送に関連して発生する金銭的負担が問題となっています。物流事業者に関税や消費税を立て替えさせる場合、その金額、期間、精算方法によっては、物流事業者に大きな資金負担が生じます。
附帯作業や立替えは、契約書の中で明確に整理されていないことがあります。しかし、物流事業者に作業や金銭的負担を求める以上、その負担を曖昧にしたままにすることは危険です。
5.代金の減額に関する事例
代金の減額については、荷主Nと荷主Oの事例が示されています。
荷主Nは、物流事業者に対し、安全協力費用という名目で、毎月の運賃から一定率を減額して支払っていました。
荷主Oは、物流事業者に対し、委託した運送業務に特段の問題がなかったにもかかわらず、あらかじめ合意した運賃から数%割り引いた金額の請求書を発行させ、減額した金額のみを支払っていました。
これらの事例で問題となるのは、減額の名称ではありません。
安全協力費、値引き、手数料、協力金など、どのような名目であっても、あらかじめ合意した運賃から一方的に差し引いている場合には、代金の減額として問題になり得ます。
特に、物流事業者側に責任がないにもかかわらず、荷主側の都合で運賃を差し引くことは危険です。取引関係があるため、物流事業者が形式上は請求書を発行し直している場合でも、それが実質的に荷主側の求めによるものであれば、問題がないとは限りません。
代金の減額は、長年の取引慣行として残っていることがあります。毎月一定率を差し引く、協力費として控除する、支払時に端数や一定割合を落とすといった処理が、過去から続いている場合もあります。
しかし、名称や慣行ではなく、実質として物流事業者に一方的な不利益を与えていないかが問題になります。
6.物の購入強制・役務の利用強制に関する事例
物の購入強制・役務の利用強制については、荷主Pと荷主Qの事例が示されています。
荷主Pは、物流事業者に対し、物流事業者が使用する車両について、自社が取り扱うリースを利用させていました。
荷主Qは、運賃の支払に当たり、物流事業者が希望していないにもかかわらず、自社の子会社が提供するファクタリングサービスを利用するよう求めていました。
これらの事例では、運送業務そのものではなく、取引関係を背景に、物流事業者に特定の物やサービスの利用を求めている点が問題となります。
物流事業者が自らの判断でリースやファクタリングサービスを選択するのであれば別ですが、荷主との取引関係の中で断りにくい状態に置かれている場合には、購入強制や役務利用強制として問題になるおそれがあります。
特に、ファクタリングサービスの利用を運賃支払と結びつける場合、物流事業者側に手数料負担や資金繰り上の影響が生じる可能性があります。荷主側から見れば便利な支払手段やグループ会社のサービス利用であっても、物流事業者にとっては望まない負担になっている場合があります。
取引上の立場を背景に、物流事業者が希望しない物やサービスの利用を求めることは、独占禁止法(物流特殊指定)上の問題につながるおそれがあります。

7.公正取引委員会が示した望ましい取組
公正取引委員会の公表資料では、問題事例だけでなく、荷主による望ましい取組も示されています。
荷主Rは、自社拠点からの出荷が大幅に遅れる場合、物流事業者に事前に連絡して集荷時間を指定し直したうえで、集荷時間の変更に伴い物流事業者に生じた人件費等の費用を支払っています。
荷主Sは、数年前から、物流事業者に対し、運送の前日に配車表を作成して提示し、配車計画で問題がないかを確認してから翌日の配車を確定していました。事後の検証を繰り返して配車計画の精度を高めたことで、現在では、荷主に起因する荷待ちの発生をほとんどなくしています。
荷主Tは、事前に電話や電子メールで集荷時間を調整し、工場で製品を引き渡す際に荷待ちが生じないよう、出荷準備を整えることとしています。また、引渡しが遅れそうな場合には、必ず事前に集荷時間を連絡し、それに伴う追加費用の全額を支払うようにしています。
荷主Uは、荷待ちが生じないよう取り組んでいるものの、繁忙期には荷待ちが発生してしまうことを前提に、荷待ちにより追加費用が生じた場合には、物流事業者の請求に基づきその全額を負担することとしています。また、日頃から物流事業者に対し、追加費用が生じた場合には必ず請求するよう周知しています。
これらの取組に共通するのは、荷待ちを「現場で起きてしまうもの」として放置していない点です。
出荷遅れが起きた場合の連絡、集荷時間の変更、追加費用の支払、配車計画の確認などを通じて、物流事業者に負担が生じた場合の取扱いを明確にしています。
価格協議についても、望ましい取組が示されています。
荷主Vは、物流事業者との間で、1年に2回程度、運賃に係る定期的な協議の場を設けています。また、その協議の場以外でも、物流事業者からコスト上昇を理由とした運賃引き上げ要請があった場合には、その都度協議に応じています。
荷主Wは、労務費転嫁指針の考え方に基づき、物流事業者に対して積極的に価格協議の呼び掛けを行い、物流事業者から協議を持ちかけられた際には応じることとしています。
荷主Xは、少なくとも年1回、物流事業者と運賃交渉を実施しています。運賃引き上げを求める物流事業者と協議するだけでなく、運賃引き上げを求めない物流事業者に対しても、荷主側から「この価格で大丈夫か」などと声をかけ、運賃引き上げの必要性の有無を確認しています。
これらの事例は、価格協議が単なる値上げ対応ではないことを示しています。
物流事業者から申出があったときだけ対応するのではなく、コスト上昇局面において、荷主側からも協議の機会を設けることが求められています。
8.荷主Aから荷主Xまでに共通するもの
荷主Aから荷主Qまでの問題事例と、荷主Rから荷主Xまでの望ましい取組を比較すると、見えてくるものがあります。
問題事例では、物流事業者から請求や申出がなかったことを、問題がないことの根拠として扱っている場面が目立ちます。
荷待ち料金の請求がなかったので支払わなかった。運賃引き上げの要請がなかったので据え置いた。追加費用の請求がなかったので補償しなかった。附帯作業の対価について明示していなかったが、運賃に含まれていると考えた。
しかし、物流事業者は、取引関係を守るために声を上げにくい立場にあります。特に、継続的な取引、元請物流事業者を通じた取引、多重下請の関係がある場合、実際に負担を受けている事業者やドライバーの声が、荷主まで届かないことがあります。
今回の調査結果の核心は、物流事業者の沈黙を、荷主側が安全の証拠として読んできたことです。
請求がないから問題ない。申出がないから協議しない。長年そうしてきたから運賃に含まれている。現場で回っているから支障はない。
こうした判断が、今後は独占禁止法(物流特殊指定)上の問題につながる可能性があります。
荷主企業に求められているのは、物流事業者からの申出を待つことではありません。荷待ち、附帯作業、支払条件、価格協議について、物流事業者に一方的な負担が生じていないかを確認し、必要に応じて取引条件を整理することです。
公正取引委員会が示した荷主Aから荷主Xまでの事例は、単なる違反例の紹介ではありません。
これまで現場の慣習として処理されてきた物流取引を、荷主側がどのように見直すべきかを示す警告でもあります。
物流事業者の沈黙を、安全の証拠として読んではいけません。
同志社大学卒業後、パナソニックの物流部門および物流子会社にて20年以上、物流法務と契約管理に従事。荷主企業と物流会社の双方での実務経験を持ち、現場の課題と制度の両面を熟知しています。
現在は行政書士として独立し、「荷主責任」を切り口に物流コンプライアンスの実務指導・契約チェック・社内研修を展開。『物流下請法』の著者として、出版やセミナーを通じて最新の法改正や実務対応を提言し、制度改善に向けた提言活動にも取り組んでいます。荷主責任に関する実務指導の第一人者として、高い評価を得ています。







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