荷主が自社の物流リスクを把握できない理由

「何をどこまで対応すればよいのかわからない」
取適法など物流取引に関する法対応について相談を受けた際に、荷主企業の担当者からよく聞く言葉です。

契約書は見直した。社内説明会も開いた。改正内容の資料も読んだ。チェックリストも一度は確認した。それでもなお、「自社のどこが本当に危ないのか」が見えてこない。

これは、対応が遅れている企業だけの話ではありません。むしろ、真面目に取り組んでいる企業ほど、この段階で止まります。

現在の物流リスクは、法律の条文を読んだだけでは見えてこないからです。本当の問題は、法令知識の不足だけではありません。物流の実態そのものが、社内で見えにくくなっていることにあります。

目次

1.現場で起きていることが、会社に届いていない

契約書には「附帯作業は別途協議」と書かれている。しかし現場では、積込み補助や荷降ろし作業を、運送会社が当然のように対応している。

荷主側は「朝9時納品」と指定しただけのつもりでも、実際には受付待ちや検品待ちが重なり、ドライバーが長時間待機していることもあります。

ところが、こうした実態は経営層にも法務部門にも届きません。現場は「昔からこのやり方だから」と考えます。物流担当は「運送会社も了承している」と受け止めます。営業部門は納期を優先し、倉庫現場は出荷を止めないことを最優先にします。

その結果、誰もそれを法令上のリスクとして扱わないまま、日々の運用だけが積み上がっていきます。ここに、荷主企業が自社のリスクを把握できない大きな原因があります。

2.部門ごとに分断され、全体像が誰にも見えない

🟦購買部門:契約を管理する
🟦営業部門:納期・出荷条件を決める
🟦生産管理部門:出荷計画を組む
🟦倉庫・現場:実際の荷扱いを担う
🟦物流部門:配車を行う
🟦経理部門:支払処理を担当する

それぞれが別々に動き、それぞれが自部門の目標を優先します。営業は売上を追う。現場は出荷遅延を避ける。購買はコスト削減を求める。その結果、運送会社にどのような負担が集まっているのかを、会社全体として把握する人がいなくなります。

これは、担当者個人の問題ではありません。物流を誰がどのように管理し、全体としてどう見ていくのか。その役割が、社内で曖昧なままになっているのです。

3.「普通の運用」が、そのままリスクになる

物流現場には、長年積み重なってきた慣習があります。荷待ちは「ある程度は仕方ない」とされ、現場で処理されてきた。荷役はサービス対応として片付けられ、急な変更依頼は現場の調整力で吸収される。追加作業に至っては、契約書に記載されないまま処理されていることもあります。それぞれの現場では、これが「普通の運用」として扱われてきました。

しかし、取適法や物流特殊指定の見直しは、まさにその「普通」を確認対象にしています。契約書があるかどうかだけではありません。実際にどう運用されているかが問われます。

契約上は有償となっていても、現場では無償対応が続いていないか。
発注書は存在していても、実際には電話やメールだけで運用されていないか。
納期設定が、現場へ過度な負担をかける形になっていないか。

形式上整っているだけでは足りません。現場で何が起きているかまで、荷主側が説明できるかどうかが問われます。

4.「運送会社から何も言われていない」は、最も危険な誤解

荷主側が誤解しやすいのが、「運送会社から何も言われていないから問題ない」という感覚です。しかし実際には、運送会社は、そう簡単に声を上げられません。

取引を失いたくない。関係悪化を避けたい。現場担当者同士で何とか調整してしまう。その結果、多くの問題は表に出ないまま積み上がっていきます。

荷主側から見れば、「問題は起きていない」ように見えます。しかし実際には、現場が無理を抱え込むことで、かろうじて回っているケースもあります。

5.取適法が求めているのは「法令対応」だけではなく「荷主ガバナンス」

現在の法改正が求めているのは、単なる契約書整備ではありません。契約から発注、現場運用、支払いに至るまで、自社の物流がどのように動いているのかを、荷主自身が把握し、説明できる状態にすることです。

問われているのは、法令対応だけではありません。物流をどう管理し、社内で誰が責任を持つのかという「荷主ガバナンス」です。

6.第一歩は地道だが、避けて通れない

第一歩は、極めて地道です。まず、自社の物流現場で何が起きているのかを知ることです。

🟦どこで待機が発生しているのか。
🟦誰が附帯作業を依頼しているのか。
🟦現場がどこまで運送会社に依存しているのか。
🟦契約と実態に違いはないか。

荷主が自社のリスクを把握できないのは、法律を知らないからだけではありません。物流の実態が、長年にわたり現場に埋もれ、部門ごとに分かれ、誰にも全体が見えにくくなっていたからです。

現在の法改正は、その「見えていなかった部分」に対して、荷主自身が責任を持つことを求め始めています。これまで現場の調整力によって回っていた運用も、「なぜその状態になっているのか」を荷主側が説明できなければなりません。

法人代表/行政書士 楠本浩一(くすもと こういち)プロフィール

同志社大学卒業後、パナソニックの物流部門および物流子会社にて物流法務と契約管理に携わり、物流業界での経験は30年以上。荷主企業と物流会社の双方の実務を通じ、物流部門単独では解決できない課題の所在を把握。
独立後は「荷主責任」を切り口としたコンプライアンス実務の専門家として、社内ルールの制定や委託仕様書の作成、社内研修を通じ、荷主企業のリスク低減を支援。

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