トラックの「適正原価」は今どこまで決まった?第3回有識者検討会までを整理

トラック運送事業に導入される「適正原価」について、国土交通省では2026年7月から「適正原価の設定に向けた有識者検討会」が開催されています。
適正原価は、トラック運送事業者が自ら貨物を運ぶ場合だけでなく、他のトラック運送事業者などに運送を委託する場合にも関係します。貨物自動車運送事業法の改正により、国土交通大臣が定める適正原価を「継続して下回らない」ことが求められることになります。施行は法律の公布から3年以内です。(出典:国土交通省)
ただし、現時点で「適正原価はいくらになるのか」が決まったわけではありません。(2026年10月2日現在)

第1回から第3回までを見ると、それぞれの役割はかなり違います。

第1回 論点を設定した回

第2回 国土交通省が適正原価について具体的な考え方を示した回

第3回 その考え方に対し、荷主・運送・労働側がそれぞれの立場から意見を出した回

第4回(次回予定) それらの意見を踏まえ、国土交通省が各論点の方向性を整理する回

第1回 まず「何を決めるのか」が示された

第1回は2026年7月17日に開催されました。
議題は「トラック運送業をとりまく現状及び最近の取り組み」と「適正原価の設定に向けた論点提示」です。つまり、まず検討すべき項目を並べたスタートの回でした。
適正原価には何を含めるのか。人件費をどの水準で見るのか。車両費、安全確保のための経費、将来必要となる投資、燃料費、荷待ち・荷役などの料金をどう扱うのか。
さらに、実車率、帰り荷、多重下請け、ドライバーへの賃金還元など、その後の検討につながる論点が広く提示されました。

ここで重要なのは、標準的運賃と適正原価は同じものではないということです。

標準的運賃は、運賃交渉の参考となる水準です。一方、適正原価は、事業を適正に続けるために一般的に必要となる費用を算定し、トラック運送事業者が継続して下回らないことを求めるものです。

第2回 国土交通省の考え方が具体的になった

第2回は8月26日に開催され、関係団体へのヒアリングとともに、個別の論点について国土交通省からかなり具体的な考え方が示されました。
特に重要だったのが、標準的運賃との違いです。
例えば標準的運賃では、帰り荷がない場合でも帰路の原価を確保するため、実車率を50%として計算しています。
ところが実態調査では、すべての距離帯で実車率が50%を上回っています。このため国土交通省は、適正原価では荷物を積んでいるかどうかにかかわらず、実際に車両を走らせた距離・時間を対象に原価を算定する方向を示しました。
また、適正原価そのものには適正な利潤を含めず、実際に収受する運賃・料金は原価に利潤を加えたものになるとの整理も示されています。
さらに、適正原価より高い運賃を現在収受している事業者に対して、荷主が「適正原価まで下げてほしい」と要求することも懸念されています。
そこで、標準的運賃に近い役割を持つ「モデル運賃」を別に示す案も出ています。

ここまで来ると、適正原価は単なる「標準的運賃の後継」ではないことが分かります。

第3回 荷主・運送・労働組合側の意見がぶつかり始めた

第3回は10月1日に開催されました。
公益社団法人全国通運連盟、全国交通運輸労働組合総連合、一般社団法人日本経済団体連合会、全国中小企業団体中央会、一般社団法人日本新聞協会からヒアリングが行われています

ここで注意したいのは、第3回の「資料6」です。

資料6「適正原価の設定に向けた個別論点の検討①」は、第2回で使用された資料8の再掲

つまり、第3回で国土交通省が実車率やモデル運賃について新しい案を出したわけではありません。
第3回の中心は、むしろ各団体からの意見でした。

一般社団法人日本経済団体連合会は、制度の趣旨には賛成しながら、実車率について2024年度実績63.43%など実態を参考にすることを提案しています。また、荷主が帰り荷の確保などに取り組んで実車率を向上させた場合、その成果を適正原価や運賃に反映して荷主にも還元することを求めています。
トラックの減価償却についても、標準的運賃で使われている5年ではなく、実際の使用年数を踏まえるべきとの意見が出ています。
一方、公益社団法人全国通運連盟は、物流効率化によって削減できた費用を、そのまま運賃引下げの材料とすることには慎重です。
物流効率化にはシステム、設備、教育などへの投資が必要であり、そこで生まれた余力を将来の設備更新、安全対策、人材確保などに使うこともあるためです。

両者を並べると分かりやすいと思います。

荷主側から見れば、「物流を効率化したのであれば、その成果を運賃にも反映してほしい」となります。

運送側から見れば、「効率化したからといって、その成果をすべて値下げに回してしまえば、次の投資ができない」となります。

適正原価を決める難しさが、ここに表れています。

貸切バスの運賃制度も議論に登場

全国交通運輸労働組合総連合は、貸切バスの運賃制度を適正原価の参考として取り上げています。
貸切バスでは、運転者の賃金を全産業平均に近づけ、担い手不足を改善することを目的として基準運賃の見直しが行われています。同団体は、トラックの適正原価についても、ドライバーの賃金確保につながる運賃が重要だと主張しています。
さらに、適正原価によって収受した運賃・料金が本当にドライバーの賃金へ回っているのかを、事業許可更新時などに確認する仕組みも求めています。
適正原価を「荷主がいくら払うのか」という問題だけで見るのではなく、最終的にドライバーの処遇改善につながるのかまで確認する必要があるという考え方です。

第4回は「方向性を整理する回」(筆者予想)

そして次の第4回が重要になります。
これまでの予定では、第4回は2026年10月に開催し、第2回・第3回で行われた関係者ヒアリングと個別論点の検討を踏まえて、「論点整理」を行うことになっています。

したがって、第4回は、「適正原価を決める回」ではありません。

第3回までに出た意見について、

①実車率をどう考えるのか。
②トラックの使用年数を原価にどう反映するのか。
③人件費をどの水準にするのか。
④物流効率化による削減分をどう扱うのか。
⑤安全確保や将来投資に必要な費用をどこまで認めるのか。
⑥モデル運賃をどのような位置付けにするのか。

    こうした論点について、国土交通省が今後の方向性を整理する回と考えた方がよいと思います。
    その後、11月の第5回で提言案の骨子、12月の第6回で提言案をまとめる予定です。

    「適正原価はいくらか」だけを見ない

    適正原価をめぐる報道では、どうしても「現在の標準的運賃より高くなるのか、低くなるのか」という数字に目が向きます。
    しかし、第3回までの議論を見る限り、もっと重要なのは、何を事業継続に必要な費用として認め、その費用を誰がどのように負担するのかです。

    荷主には物流費を抑えたい理由があります。

    運送会社には、安全、人材、車両、設備への投資を続けながら事業を維持する必要があります。

    ドライバーには、長時間労働を減らしながら、他産業に見劣りしない賃金を確保するという課題があります。

    第3回でそれぞれの立場から意見が出そろい始めました。

    第1回は論点設定。
    第2回は国土交通省の考え方の具体化。
    第3回は関係者による意見提示。
    第4回は、それらを踏まえて国土交通省が方向性を整理する回です。(筆者予想)

      適正原価の議論は、これからようやく大きな分岐点に入ります。
      第4回でどの意見が取り入れられ、どの論点が今後の検討事項として残されるのか。
      ここから先の資料は、荷主企業にとってもトラック運送事業者にとっても、これまで以上に注意して確認する必要があります。