適正原価は「全国一律」でよいのか 第2回・第3回ヒアリングから見えた次の論点

トラック運送事業の「適正原価」を検討する有識者検討会では、第2回、第3回と関係団体へのヒアリングが続きました。
荷主・経済界側に着目すると、第2回では日本商工会議所、全国商工会連合会、全国農業協同組合中央会、一般財団法人出版文化産業振興財団、第3回では一般社団法人日本経済団体連合会、全国中小企業団体中央会、一般社団法人日本新聞協会から意見が示されています。
この7団体の意見を並べて読むと、適正原価を考えるうえで重要な二つの視点が見えてきます。

一つは、企業全般に共通する問題です。

一般社団法人日本経済団体連合会、日本商工会議所、全国商工会連合会、全国中小企業団体中央会からは、適正原価の導入に伴う価格転嫁、荷主の責任範囲、運送会社との交渉期間、中小企業でも対応できる分かりやすい運用などについて意見が出ています。
例えば一般社団法人日本経済団体連合会は、荷主が運送会社ごとの詳細な原価を継続して把握することには実務上の限界があるとして、荷主に求められる対応を明確にするよう求めています。また、多数の運賃改定交渉が発生することを想定し、十分な交渉期間を確保することも提案しています。
これは適正原価を実際の企業取引で運用するうえで避けられない問題です。

一方、もう一つの視点が、業界ごとに輸送条件が大きく異なるという問題です。
全国農業協同組合中央会、一般財団法人出版文化産業振興財団、一般社団法人日本新聞協会の意見には、それぞれの業界ならではの事情が強く表れています。

①農産物は季節による荷量変動があり、物流費が上昇しても商品価格へ直ちに転嫁できるとは限りません。
②出版物流では、複数出版社の商品をまとめて運ぶ共同配送が長年行われ、返品物流もあります。
③新聞輸送では、印刷から販売店への到着まで時間が厳しく決められている一方、共同輸送や古紙を帰り荷として活用する取り組みも進められています。

第3回で一般社団法人日本新聞協会は、古紙輸送によって7~8割のトラックが帰り荷を確保している事例を示し、実車率50%を前提とした考え方に違和感を示しました。また、標準的運賃では車両の償却期間を5年としているのに対し、貨物車の平均使用年数16.29年を示し、実態を踏まえた検討を求めています。
これらの意見には十分な理由があります。
むしろ、こうした個別業界のヒアリングが行われたことで、適正原価を考える際の難しさがより明確になったといえます。

新聞や出版だけが特殊なのではない

ここで一つ考えておく必要があります。
特殊な輸送条件を持つのは、新聞、出版、農産物だけではありません。

分野一般的な貨物輸送と異なる主な条件
冷凍・冷蔵食品温度管理が必要で、冷凍・冷蔵設備や品質管理に追加コストがかかる
石油・高圧ガスなど専用車両を使用し、一般貨物のように自由に帰り荷を確保しにくい
重量物・プラント輸送特殊車両や特殊な輸送条件が必要となり、輸送経路や積み降ろしにも制約がある
医薬品温度管理、品質管理、セキュリティなど通常貨物より厳しい管理が求められる
海上コンテナ港湾での待機、コンテナ搬出入、船舶スケジュールなど荷主だけでは調整しにくい要素がある
自動車部品多頻度納入、生産ラインとの同期、時間指定など、一般貨物より運行条件が厳しい場合がある

したがって、ある業界について、「この業界には特殊な事情があるから別に扱う」という方法を積み重ねていくと、適正原価は業界ごとに細かく分かれていくことになります。
逆に、全国平均の一つの考え方だけで整理すれば、実際の輸送条件とのズレが生じる可能性があります。

この間をどう整理するのかが、今後の重要な課題ではないでしょうか。

「業界名」より「輸送条件」で考える

ここで参考になるのが、第3回で一般社団法人日本経済団体連合会から示された考え方です。
実車率について2024年度の実績63.43%を議論の出発点とし、さらに車格によって実車率が異なることも考慮するよう求めています。また、荷主が帰り荷の確保などに取り組み、空車回送を減らした場合には、その成果を適正原価や運賃にも反映することを提案しています。これは一つのヒントになります。

今後重要なのは、

どの業界を特別扱いするのかではなく、どのような輸送条件なら適正原価を補正する必要があるのか

を整理することではないでしょうか。

①専用車両で他の貨物を積めない。
②温度管理設備が必要である。
③厳しい時間指定があり積載率向上に限界がある。
④荷主の協力によって高い実車率を実現している。
⑤荷待ちや特殊な荷役が必ず発生する。

こうした条件を整理し、同じ条件には同じ考え方を適用できれば、特定の業界だけを例外とする必要はありません。新聞輸送であっても、冷凍食品であっても、化学品であっても、同じ輸送条件なら同じ考え方で扱うことができます。

ヒアリングで見えたのは「反対」ではなく制度の難しさ

第2回・第3回のヒアリングを、荷主側が適正原価に反対しているとだけ見るのは適切ではありません。
各団体の意見を見ると、必要な運賃を確保し、物流を継続できるようにするという方向自体を否定しているわけではありません。

問題となっているのは、

①その原価をどの前提で計算するのか。
②物流効率化の成果をどう扱うのか。
③業界ごとの違いをどこまで反映するのか。
④荷主にどこまでの対応を求めるのか。

という具体的な部分です。

出版、新聞、農業という個別業界から意見を聞いたことは、この問題を考えるうえで意味があったと思います。
同時に、そこからもう一歩進んで、冷凍・冷蔵、危険物、重量物など他の特殊な輸送にも共通して使える考え方へ整理していくことが必要です。
第4回以降で注目したいのは、単に「適正原価をいくらにするか」ではありません。

全国共通の基準と、実際の輸送条件による違いをどのように両立させるのか。

第2回・第3回のヒアリングを通じて、次に検討すべきポイントがかなりはっきりしてきたように思います。